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【名前】チンク 【出典】魔法少女リリカルなのはStrikerS 【声優】井上麻里奈(「魔法少女リリカルなのはStrikerS」のエリオ・モンディアル、ウェンディ) 【種族】戦闘機人 【性別】女性 【年齢】外見年齢11歳(稼働歴はクワットロ[10年]より若干長い) 【外見】 銀髪で小柄な体格。右目に眼帯。 【性格】 冷徹な姿勢を見せるも、落ち着いた性格で姉妹達の面倒見も良い。 【原作での設定】 スカリエッティによって作られた、5番目の戦闘機人。 【面識のある参加者】 名前 呼び名 関係 高町なのは(sts) - スカリエッティの敵 フェイト・T・ハラオウン(sts) - スカリエッティの敵 八神はやて(sts) - スカリエッティの敵 ユーノ・スクライア - スカリエッティの敵 クロノ・ハラオウン - スカリエッティの敵 シグナム - スカリエッティの敵 ヴィータ - スカリエッティの敵 シャマル - スカリエッティの敵 ザフィーラ - スカリエッティの敵 スバル・ナカジマ ゼロセカンド 捕獲対象 ティアナ・ランスター - スカリエッティの敵 エリオ・モンディアル - スカリエッティの敵 キャロ・ル・ルシエ - スカリエッティの敵 ギンガ・ナカジマ ゼロファースト、ファースト 捕獲対象 ルーテシア・アルピーノ (このロアでは)ルーテシアお嬢様、お嬢様 仲間 ヴィヴィオ - 聖王のゆりかごの起動キー ゼスト・グランガイツ - 仲間 クアットロ クアットロ 仲間 ディエチ ディエチ 仲間 【技能・能力】 能力名 内容 ランブルデトネイター チンクの持つ先天固有技能。一定時間手で触れた金属にエネルギーを付与し、爆発物に変化させる能力。
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ある日の「スカリエッティ世界征服研究所」 食堂にやって来たチンクとディエチはメニューを書き込むホワイトボードの 張り紙に気付いた それはA4用紙にレーザープリンターで出力された一覧表だった 曰く- 戦闘機人軍団序列 凱聖 トーレ 豪将 チンク 暴魂 クアットロ 雄闘 セッテ 爆闘士 ディード 激闘士 ディエチ 烈闘士 オットー 強闘士 ウエンディ 中闘士 ノーヴェ 軽闘士 セイン 「何コレ?」 能面のような表情で呟くディエチ 「ドクター……」 コメカミを押さえるチンク 「あーっ、なんスかこれ!?」 「何でアタシがウエンディより格下なんだよ!!」 「ちょっ!軽闘士ってナニ!?」 「爆闘士だってねディード」 「烈闘士なのねオットー」 「流石ですトーレ」 「いちいち尻を撫でるなセッテ!」 「やあ賑やかだねえ」 いい具合にカオスになったところでスカ登場 「なんなんですかコレは!?」×10人 「なに、ちょっとキミ達の格付けを考えてみてね」 「そういえばウーノ姉様とドゥーエ姉様が抜けてますけど?」 クアットロの問いにドクターにやりと笑う 「とうぜん二人は美人秘書Ⅰ号Ⅱ号として朝から晩までサービスサービ…」 なんだろう?痛いというより熱い 下を向いたジェイルの目に映ったのは真っ赤に染まったシャツと 胸から生えたピアッシングネイル 「アッ――――――――――!!!」 END
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ティアナとスバルがチンク、ノーヴェの二人と交戦を開始する少し前 フォワード陣を列車に下ろし終わった輸送ヘリは戦闘領域を離脱しようとしていた。 「さて、中じゃ始まったみたいだ……大丈夫かジルグ?」 ジルグに目もくれず通信指揮をするリインフォースを横目に ヴァイスがジルグに声をかける。 ヴァイスもフォワード陣と同様、陸士第108部隊で起こった事件は聞いていない。 これまで特にジルグと個人的に交流があったわけではないので フォワード陣とは違い、多少の同情をジルグに抱いていた。 初めて上空から制圧作戦を行うなどという場合、 むしろジルグのような反応があってもおかしくはない。 軍隊だったら有無を言わせず放り出すのだろうが 機動六課は治安維持部隊であり、軍隊ではない。 確かにジルグの技量や人となりを人伝いに聞いてはいたが 何もあそこまで言う事はないだろう、とヴァイスは思っていた。 「これからこのヘリは戦闘領域を離脱する あんまり気分が悪いようなら横になって……」 そこまで言いかけてヴァイスはジルグの様子が違う事に気づく。 「いや、大丈夫だ」 下を向き、前髪で隠れている為、表情は読み取れない。 「さすがにこのまま何もしないのも後味が悪い。 中央車両の上に向かってくれないか?」 そう言って面を上げたジルグの顔には…… 先程の怯えなど微塵も感じられ無い、不敵な表情が浮かんでいた。 ───管理局の鼠は一旦引いた。 だがあの調子だと、増援を待って再度迫ってくるだろう。 ならば早いうちにレリックを回収して撤収しなければならない。 しかし、とりあえず自分達を回収するために用意されたガジェットが到着するまでは待つしかない。 後部車両に配置していたガジェットを呼び寄せて ティアナとスバルが牽制してきた時の為に配置する。 弾除けくらいになるだろうと思いながらチンクはノーヴェの方を見る。 ノーヴェは天井に開いた大穴の真下で残骸を蹴っ飛ばしていた。 それを見ていたチンクはどこか違和感を感じた。 何かがおかしい。 敵が列車の屋根に大穴を空けたのは先程の戦闘の最初のほうだ。 列車の上空には大量のガジェットを展開させている。 上空制圧をしてくるであろう敵に対してかなりのガジェットが向かったはずだが それでも中央車両上空を滞空しているガジェットはまだ残っていたはずだ。 なのに先程の戦闘中、屋根に穴が空き 自分達が戦闘を行っているにもかかわらず 穴からは一機のガジェットも進入してこなかった。 カンッ!とノーヴェの背後に何かの残骸が落ちてくる。 ノーヴェの上にあるのは敵があけた大穴だ。 その空間から何かが落ちてくるとすれば…… 「ノーヴェ! 上だ!!」 とっさに叫び、彼女自身も上空を見上げる。 何かが落ちてくる……自由落下の速度ではない! 「!!」 ノーヴェも上を向き、目を見開き迎撃しようと右腕を動かす。 だが、それは既に遅きに失した行為だった。 ジャン!!!!! 形容しがたい音が中央車両の中に鳴り響く。 ノーヴェとチンクが見たのはノーヴェの背後で銃剣を振り下ろして着地した 身体の各所にデバイスらしき物を装着した赤い髪の男……そして ゴトリ…… 肩から切断され、床に転がったノーヴェの右腕だった。 本来非殺傷設定にしてあるデバイスによる攻撃では 魔力にダメージを受けても直接身体的なダメージを受けることは少ない。 だが……重力と跳躍補正装置による加速に加え 物理的な攻撃も可能なベルカ式のダガーによる斬撃。 いくら戦闘機人が頑丈に作られていようと耐えられるはずもなかった。 ノーヴェはその瞬間何が起こったのかわからなかった。 チンクの声と頭上から降ってきた赤い影。 右肩に感じた凄まじい衝撃と床に転がる自分の右腕。 そして…… 自分の背後でゆらっと立ち上がる赤い髪の男---ジルグと目が合う。 その笑みすら浮かべた相手の目から放たれるのは、明確な殺意。 「う……」 沸き起こる圧倒的な痛みと恐怖。 「うわーーーーーーー!!!」 足がすくんで動かないノーヴェは、闇雲に残った左腕をジルグに向かって振り回す。 だがジルグはあっさりとノーヴェの左手を掴み、ねじ上げる。 そのままジルグはチンクとその周囲に浮かぶガジェットに向かってライフルを連射した。 「くっ!!」 尋常ではない速度と威力の魔力弾。 チンクは舌打ちすると壁の隙間に身体を躍らせる。 「ノーヴェをわざと倒さず盾に……これじゃ攻撃できない……」 ギリッと歯軋りをする。 「しかも正確無比な射撃…!」 AMFを展開しているはずのガジェットをもあっさりと貫通し、破壊する魔力弾。 恐らく誘導に魔力を割かず全て威力に回しているのだろう。 だが、いくら魔力を威力に回しているとはいえ これほどの魔力弾をこの速度で連射できるということは 間違いなく超一流の魔術師だ。 ガジェットも一応回避運動を行っているにもかかわらず まるであらかじめ行き先を知っているかのように 次々と魔力弾がガジェットに着弾し みるみるうちに数を減らしてゆく。 「……! バカ! やめろ!!」 まだ撃破されていない数機のガジェットがジルグに射撃を浴びせる。 「うぐっ! あぁぁぁぁぁ!!」 だがそれは全て盾にされたノーヴェに着弾する。 「へぇ……」 嘲笑うかのように口元を歪めたジルグは、チンクの方にノーヴェを蹴り飛ばすと 後方に飛びながら残りのガジェットを全て撃破し レリックの収納してあるスペースの陰に隠れる。 「ノーヴェ!!」 「チ…ンク姉……うぅ……」 「くっ、レリックを目の前にして……だが今はノーヴェが優先だ」 チンクは自分達を回収する為に近づいてきたガジェットが近くに移動してきたのを見計らい ノーヴェと切断された彼女の右腕を持ち、車両から姿を消した。 エリオとキャロがやっとのことで新型ガジェットを撃破し、中央車両に到着しようと言う頃 中央車両内の異変を訝かしんだティアナとスバルが中央車両に再突入し、列車内は完全に制圧されていた。 そしてレリックは無事確保され、列車は停止した。 こうして機動六課の初任務は無事成功に終わったのであった………のだが…… 「……さて、事情を聞かせてもらおうかな?ジルグさん」 ジルグの目の前には満面の笑みを浮かべたなのはが立っていた。 だが、その周囲にはオーラどころか瘴気とさえ呼んでもよさそうな気が ドヨドヨと無尽蔵に発散されている。 瘴気に当てられ、思わずその場から大声をあげながら逃げ出したい心境のフォワード陣とは対照的に フェイトもおもわずドン引きしているそれを向けられているジルグはというと 特にいつもと変わらず、涼しい顔を崩さない。 「しばらく混乱したまま震えていましたが── 気分も良くなってきたので、せめて援護くらいはしようと思って中央車両に侵入したら敵がいたので 怖くなって隠れていました、以上!!」 「……(笑)。ヴァイス君やリインの報告と違うね。 中央車両上空のガジェットを単機で制圧、 スカリエッティの配下とみられる二人の敵のうち一人を撃破、退却に追い込む…とあるけど?」 「………」 しばしの沈黙。 「……じゃあそういう事で」 「ジルグさん、今回の件「ジルグさーん!ヘリから直接落下して着地しながら攻撃したんですって? 早くデータ取らせ…………あれ?」」 唐突なシャーリーの登場に固まる面々。 「な、なんか良くわからないけどジルグさん借りてくわねー! あとフォワードの子達も報告書よろしく!」 と言い、ジルグを引っ張ってゆくシャーリー。 そして待機室にはなのはとフェイト、4人のフォワード陣が残された。 「………(笑)」 今だ瘴気を発したまま満面の笑顔を浮かべたなのはが口を開く 「解散」 脱兎の如く退出するフォワード陣、あんなところ一秒でもいたくない。 後にエリオはヴァイスにこの時の事を 「あの時のなのはさんなら第六天魔王ですら泣いてひれ伏すと思います」 と語ったとか。 「じゃ、じゃあわたしもこれで……」 逃げようとするフェイトの肩をなのはの手がガシッと掴む。 ──たぶんプロレスラーにも匹敵すると思う、と後にフェイトははやてに語っている。 ギ…ギ…ギ…という音が出そうな動作で振り向くフェイト。 そこには変わらず笑顔のなのはがいた。 「フェイトちゃん、どうして逃げるのかな?」 「い、いやホラ!わたしも報告書の仕事とかあるし!!」 「わたし達友達だよね? 友達ならこういう時どうするのかな?」 そのまま「誰か助けてー!!」と心の中で叫ぶフェイトを ズルズルと居酒屋の方へ引きずっていくなのはであった。 前へ 次へ
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こんなことは、あり得ない。 「ッッ……!!あ、あああぁぁぁっ!!」 戦意を咆哮で揚げて、姉妹が駆ける。 既にその時点でおかしい。人間ではない我々が、わざわざ声を上げて戦意を奮い起こさ ねばならない事態など、常識的にあり得ない。 この身は戦闘機人。戦うために生み出された、魔法と科学技術の結晶たる人型兵器。 それぞれのベクトルに特化している節はあれど、並みの魔導師ならば身体能力はもちろん、 魔力においてもまず遅れをとることなどあり得ない。 ましてや、魔導師でもない存在など、人であろうと、あるまいと。 「あぐっ!?」 「ディード!」 ならば。 目の前に立つこれは何なのだ。 振り下ろされた末妹が武器、赤熱する双剣・IS ツインブレイズを易々とかわし、妹の腹部に拳を突 き込んだこれは。 50からなるガジェットドローンの群れ、その全てを潰し、引き裂き、妹ウェンディをそのIS エリア ルレイヴの防御ごと沈めたこれは。 「………ッ!!」 障壁を張ることさえ許されずに一撃を受け、くず折れる末妹には最早目も向けず、その男が歩いてく る。 気楽な足取りではないが、気負うところもまた無い、自然な足取りで大柄な体を進めてくる。 チンクとノーヴェに目をやる。 二人とも呑まれてはいない。後ろのセッテも同じはずだ。……いや、少々ノーヴェが血を上らせてい るか。 相手の腕力からして近接型のノーヴェが冷静さを失うのは痛いのだが、仕方ない。 二人に目を合わせ、駆け出す。ノーヴェが先行し、私がそのわずかに後ろ。 隆々とした体躯を黒いコートに覆う標的まで、後17m。コートの下は装甲と確認。 12。アイカメラで標的の熱量変化確認。発熱部位は人間と異なる。 10。チンクのナイフが横を抜けてゆく。 7。ノーヴェが構える。標的が最初に到達したナイフを手で弾く。能力修正には値しない。 5。ノーヴェが仕掛ける。標的が最後のナイフに手を伸ばす。――IS、発動。 衝撃。金属音。標的内部より、軋み。 「………チ!」 見えていなかった。 見えていなかった、はずだ。 一瞬で背後に回りこんだ私の一撃は、かろうじてだが男の左腕、その装甲に防がれていた。 私のライドインパルスは高速移動を可能とするIS。他の姉妹のように特定の武器はないが、それを不 要とせしめる スピードこそが武器となる。AAAランク魔導師といえど、対処は困難を極める。 それを辛くとはいえ、男は防いでみせた。魔力も持たずに。……可能だろう。 「成る程な、反応が妙だと思えば……ご同類か。だが、魔力を使用していないということは旧式か?そ れとも、技術者の腕が悪かったか?」 「……いかんな。高速機動隊の相手などし慣れたつもりだったが、時を空ければこの様か。やはり鋼の 身といえどなまるものらしい」 「………!!」 こちらの挑発に乗る気は無いらしい。外見どおりの壮年の声が自嘲の響きを込めて自戒する。 ……実際にその年齢かどうかは怪しいものだ。 人間が魔力強化もなしに、今なお押し込もうと力を込めるノーヴェの腕を掌で受けて無事なはずが無 い。私の速度に反応できるはずが無い。 何より、人と異なる熱源反応。先ほどの金属音。軋み。 「……貴様、戦闘機人だな」 「少々違うかもしれんがな。だが凡そにおいて、『こちら』ではそう呼ばれるらしい」 『こちら』? ミッドチルダ以外の出自ということか。魔力もなしに我々と渡り合えるということは、科学技術はミ ッド以上の世界なのだろう。 そしておそらく、戦闘経験においては我々はこの男に大幅に差をつけられている。 男のコートの裾から覗く体は、首から下は無骨な機械の装甲が剥き出しで、まるで人間のふりをする つもりが無い。 魔力強化のおかげで通常の人間女性と変わらぬ体型の我々とは違いすぎるその体は、戦闘ないしは経 年劣化による細かい傷が目立ち、ろくな整備を受けていないことと、相当長い間戦闘を繰り返してきた ことが垣間見える。 先ほどの私の一撃を防いだのも、体のスペックよりも経験によるものだろう。我々にも戦闘経験はあ るし、そも作られた際に無数のそうした記憶を与えられているが、それでもこの男には届くまいと思え た。 「魔法の無い世界の出身か。異世界は初めてか?ならば歓迎しよう。貴様のボディに、ドクターは大層 興味をお持ちになるだろうからな」 「あいにくとこちらに来たのは『新兵器』との戦闘の結果でな。そこの浮遊する機械に興味を持っただ けで、特に用は無い。観光もつまらんし、早々に帰らせてもらうつもりでいる」 「そうでもない。お前達の世界ではあり得ぬ光景が目白押しだぞ。それだけの性能だ、ドクターに魔力も 扱えるパーツを組み込んでもらえばより強くなれるだろう。見たところその体、各パーツに大分ガタが来 ているようだし、オーバーホールが必要ではないのか?」 「断る。どこの誰とも知れぬ輩に、この体のどのパーツも無碍に扱わせる気は無い」 「そうか。それは、残――」 台詞の途中で跳ぶ。 私は標的頭上の天井に着地、背後にはセッテが入り込む。 標的も予想はしていたのだろう、ノーヴェの右手を逸らし、セッテを右手、ノーヴェに左手に体を向 ける。 ――そう、それでいい。 会話をしたのは、情報が欲しかっただけではない。和解のためでもない。 魔力を持たない機械の体。 魔法の無い世界。 そんな世界の出自なら。 『魔力を感知する機能』など持ち得ないだろうから。 経験を武器とする戦士は、全く経験したことの無いものには反応が遅れるから。 「だあありゃああぁぁぁぁっ!!」 ノーヴェの左手が強く輝く。 標的は先ほど右手で受けたようにそれを左掌で受け――その左掌に罅が入り、腕にまで侵食してくる 様を見て初めて驚きを見せた。 同時に、セッテが双剣を別角度から斬り込む。私が頭上から急襲する。 ―――そして、虚空から現れたチンクのナイフが、標的を全方位から襲う。 気付けるわけが無い。 標的に魔力感知機能が無いのなら。 私との会話の途中から、各自それぞれが行動を起こしていたことを。 ノーヴェが右手を押し込みながら、左手に魔力を集中させていたことも。 セッテが自身のISの出力を上げ続けていたことも。 チンクが光学迷彩を施したナイフを誘導し、標的と我々の周囲に山ほど配置していたことも。 光と音を出さぬようにすれば、気付かれるわけが無かった。 だから。 「すまんな、ロイス。こんな異世界で別れとは」 こんなことは、ありえないのだ。 ノーヴェが胸部を貫かれ、宙に吊り下げられていることも。 セッテがスローターアームズの片方を叩き切られ、自身も袈裟に斬り捨てられていることも。 私が左手足を落とされ、標的の後方にて地に伏していることも。 チンクのナイフの大部分が叩き落され、突き立ったものも装甲に阻まれたものだけであることも。 それら全てを成した、四本の鋭爪を備えた鋼の触手が、標的の背中から生えていることもだ。 「罠は、獲物がかかるその瞬間が最も脆い。猟師は、獲物に照準を合わせたその瞬間が一番無防備だ。 どのような罠とは見抜けずとも、『意』は読める。ならば、最も脆いそのときを待つだけでよかった ……背負っているものが違うのだよ。機能の有無、性能の高低など何の意味もない」 ……まずい。 読み違えた。戦闘経験の差が、ここまで戦況に響くとは! あの四本のアームとて、通常に不意打ちで出されれば対処はできたはずだ。 こちらが完全に攻めに転じさえしなければ。 いやせめて、それぞれがわずかに時間をずらして攻めていれば、ここまでは……! 「チンク!逃げろ!」 「とはいえ、ガシュレー並みの拳を繰り出せる奴がいるとはな。もう少し慎重になるべきだった」 半壊した左腕に一度目をやると、標的は無傷のチンクに向かって駆け出した。 同時に、立ち上がろうともがいていたセッテにノーヴェを投げつけ、吹き飛ぶ二人を尻目にチンクと の距離を縮める。 「IS―――」 「させん!」 チンクのIS ランブルデトネイター。奴の装甲にナイフがまだ刺さっている状態ならば、十分に逆転 はありうる。 だが、たかが20m程度など戦闘機人やそれに類するものにとってどれほどの距離か。 IS発動を途中でキャンセルして身をそらし、その首があった場所をアームが裂く。あのまま続けても 、IS発動をみることなく首を落とされて終わりだっただろう。 「くぅっ――」 「無駄を!」 チンクが後退―――間に合わない。 倒れこみながら投げたナイフはことごとくアームに弾かれ、地に落ちる。 敵前で尻をつくという無様を晒したチンクの頭蓋を砕くべく、標的の右腕が振りぬかれる。 空を切って。 「「なに!?」」 「あっぶな――ひゃいいいぃぃっ!?」 「IS ホワイトカーテン!!」 「ぬっ!……む!?」 驚愕は、チンクと標的が。 チンクを引き倒し潜り込もうとしたセインが、降りかかるアームを見て悲鳴を上げる。 眼鏡をかけた妹が標的の真横に現れ、引き裂かれて消失、同じ姿が無数に標的の周りに現れて手をか ざし、標的が回避姿勢をとり、だがその手からは何も放たれず、代わりに巨大な魔法陣が辺りに広がる 。 『損傷重大。システム保全のため、機能休止状態へと入ります』 や れやれ。紫 の転移魔 法の光に身 を任せて、どう謝 礼すべき かと わ タしは 『システム休止状態へと入りました。システムチェックを実行しています……』 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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魔法少女リリカルなのはVividキャラクターファイル「StrikerS X」編 リリカルなのは最新作である「Vivid」にはシリーズを通しての設定やキャラクターが多く存在する。ここではその一部を説明しよう。 元「機動六課」 第3期「StrikerS」の中心人物たち 部隊解散後はそれぞれの道を歩んでいる スバル・ナカジマ 年齢:19 能力:陸戦魔導師/格闘家 デバイス:リボルバーナックル マッハキャリバー 元機動六課のフロントアタッカー。明るく人当たりのいい性格。部隊解散後は特別救助隊に転属し人命救助の最前線で活躍している。 ティアナ・ランスター 年齢:20 能力:陸戦魔導師/射撃手 デバイス:クロス・ミラージュ 訓練校時代からのスバルの親友。機動六課時代は同じチームでともに活躍した。現在は時空管理局の執務官として、忙しい日々を送っている。 エリオ・モンディアル 年齢:14 能力:陸戦魔導師/竜騎士 デバイス:ストラーダ 騎士を目指す少年。かつて非人道的な実験に利用され心を閉ざしていたが、フェイトに保護され育てられた。現在は自然保護隊に所属している。 キャロ・ル・ルシエ 年齢:14 能力:召喚魔導師/竜召喚 竜とともに暮らす少数民族の出身。白銀の竜フリードリヒと黒竜ヴォルテールを使役できる。現在は辺境自然保護隊の隊員として活躍中。 ギンガ・ナカジマ 年齢:21 能力:陸戦魔導師/格闘家 デバイス:リボルバーナックル ブリッツキャリバー ナカジマ家の長女。現在は陸士108部隊の捜査官として働き、妹たちやその友達の世話を焼く優しい姉。 Culaume1 機動六課とは? 正式名称は「古代遺物管理部・機動六課」。 時空管理局本局・聖王教会の支援を得たはやてが設立した新設部隊だ。表の目的は強大な魔力を秘めた古代遺産「レリック」事件対応のためだが、 その真の目的は、カリムの「いずれ起こりうるであろう陸士部隊の全滅と管理局システムの崩壊」という予言結果への対策だった。 「JS事件」解決後、その役割を終えた機動六課は解散となり、隊員たちはそれぞれの進路へ進んだ。 元ナンバーズ(ナカジマ家) スカリエッティに利用されていた戦闘機人たち 現在はナカジマ家で家族として暮らしている チンク・ナカジマ 元ナンバーズ「No.5」 能力:ランブルデトネイター 固有装備:シェルコート スティンガー 触れたものを爆発物に変える能力をもつ。外見は幼いが、落ち着いた面倒見の良い性格で、ノーヴェたちに慕われている。 ノーヴェ・ナカジマ 元ナンバーズ「No.9」 能力:ブレイクライナー 固有装備:ガンナックル ジェットエッジ 口は悪いが根は優しい性格。スバルの母クイントの遺伝子を受け継いでいるため、スバル・ギンガとは実質的にも姉妹。 ごく短い時間だが、イクスと話もしている。 ディエチ・ナカジマ 元ナンバーズ「No.10」 能力:ヘヴィバレル 固有装備:「狙撃砲」イノーメスカノン ナンバーズ時代は狙撃手として活躍。かつては無口で感情をあまり表に出さなかったが、今ではなのはを始め周囲に心を開いている。 ウェンディ・ナカジマ 元ナンバーズ「No.9」 能力:エリアルレイヴ 固有装備:ライディングボード 盾にも乗機にもなるライディングボードによる機動力と防御力が売り。語尾に「~ッス」とつく明るい性格で、保護者のゲンヤを「パパりん」と呼んでいる。 Culaume2 「ナンバーズ」とは? 次元犯罪者ジェイル・スカリエッティによって生み出された12人の姉妹たち。 いずれも人の体に機械を融合させた「戦闘機人」で、それぞれ「インヒューレントスキル」と呼ばれる先天固有技能をもっている 「JS事件」の後、管理局に確保された彼女たちは、セインやノーヴェなど自らの罪を認め更生する者もいたが、 ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテは非協力的な態度を貫き、スカリエッティとともに軌道拘置所に収容されている。 聖王教会 古代ベルカの「聖王」を敬愛する宗教組織 元ナンバーズのメンバーも保護している カリム・グラシア 能力:預言者の著書「プロフェーティン・シュリフテン」 デバイス:なし 聖王教会・教会騎士団所属の騎士。はやてが機動六課を設立した際、その後見人となった。詩文形式の予言能力というレア能力のもち主。 シャッハ・ヌエラ 能力:修道騎士/格闘家 デバイス:ヴィンデルシャフト 聖王教会所属のシスターで、カリムの秘書。自身も双剣型のデバイスを操る凄腕の修道騎士。今は更正したセインの保護役も務めている。 セイン 元ナンバーズ「No.6」 能力:「無機物潜行」ディープダイバー 固有装備 ヘリスコープ・アイ 無機物を自在に通り抜ける能力をもつ。明るい性格でナンバーズたちのムードーメーカ的存在だった。現在は、修道騎士見習いとして修行中。 オットー 元ナンバーズ「No.8」 能力:レイストーム 固有装備 ステルスジャケット 攻撃・拘束に使う光線を放つ能力をもつ。中性的な外見で、一人称は「僕」。更正後はカリムの秘書として彼女に仕えている。 ディード 元ナンバーズ「No.12」 能力&固有装備:「双剣」ツインブレイズ 優れた戦闘技術をもつナンバーズの末妹。オットーとは双子のような関係で、更正後もともに聖王教会の一員となり活躍している。 Culaume3 「聖王教会」とは? ベルカ自治領域内に本部をもつ、次元世界で最大規模の宗教組織。 数々の偉業を成し遂げたといわれる古代ベルカの「聖王」およびその血族や周辺の騎士たちを崇めている。 他の宗教に比べ禁忌や制約が少ないため信徒数も多く、各方面への影響力も大きい。 古代魔法文明の遺産「ロストロギア」の管理を使命としており、時空管理局との関係も深い。 「教会騎士団」という独自の戦力をもっており、カリムやシャッハはこれに属している。 その他の関係者 「JS事件」「マリアージュ事件」の関係者たち 今は時空管理局の保護下で生きている ルーテシア・アルピーノ 年齢:14 能力:召喚魔導師/獣召喚 デバイス:アスクレピオス 召喚魔法を操る少女。かつてスカリエッティに利用され協力していたが、現在は無人世界「カルナージ」で穏やかに暮らしている。 メガーヌ・アルピーノ 能力:??? デバイス:なし ルーテシアの母。人造魔導師の素体として適合度が高かったためスカリエッティに利用されていた。現在は娘とともに暮らしている。 ガリュー 能力:変形による生体武装の開放 デバイス:なし ルーテシアに従う人型召喚獣。言葉は話せないが、声を判別し理解できる知性をもつ。腕から伸びる巨大な爪が主武器。 イクスヴェリア 能力:「マリアージュ」の無限生成 デバイス:なし 古代ベルカ・ガレア王国の王。スバルに助けられて以来、彼女とは友人どうし。現在は、いつ目覚めるか分からない眠りについている。 Culaume4 「マリアージュ事件」とは? 遺跡研究者たちの殺害から端を発した連続殺人事件の総称。 その真実はトレディア・グラーゼという活動家によってよみがえった古代ベルカの生体兵器「マリアージュ」が、 自らを生み出した王「イクスヴェリア」を捜し暴走したものだった。 事件の中で約1000年の眠りから覚めたイクスは、逃走中のところをスバルに保護される。 マリアージュの分隊長を倒し事件は終息したが、機能不全状態にあったイクスは長い眠りにつくことになった。
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- ―― - .. > ´ ト、 ` < / i! \ / ハ 、 ',. ヽ ヽ _,,.ノ / / | ', ', i,,. i |. ', , ー-,. / i i! | ∧ ', ,.ィ!"´! | | i i | | ー ハ-/ ヾ\ !∨ヽ N ! | | , .|ヽ |__|/ ,ィt == ミャ | .! .iハ |Yヽ!//ハ. iJr.刃 }/ i! N |/////i! 込 ツ ' ! .| | な、なんばー5、チンクだ。 | ト==彡 `¨¨´ | ! ! | ! /i/i/ ' /i/i/i/i | | | しゅ、趣味は……………魔導書探し。 | ヽ _ J イ ! | | | > .. _‘_`__ ..イ、 , | .| | | | | {ニニ - 彡 人! ! | (め、目立たないと!) | | >=イ'ゞ.__0 |,,. イ ./ |、 ! ミ /レィ | |' i | ミ____ハ__// i | ∨ | / / | | .i ! / i~i | , i! | .! .| ミ/ / |> -、. | ! , | /´ ̄ \ ハ ! , | , / / 、 ヽ | / ( / ,! ヽ ! / .i! i ; ミ r' \ ∨、 ! ( ¨ー〈__/ / ! , ! .| .! ', 、 ヽ ノ-' ノ ! ` ー ⌒ =' / .ハ , ノ ; ヽ `¨/¨´ | 0 | | | i !// / 高町チンク 高町十二姉妹の五女。 セイン、セッテ、オットーとの4つ子で生まれた。 初出はイジューレ温泉編2日目のガールズトーク時にメタ的に登場。 イジューレ温泉編5日目に再登場。 4つ子の姉だが体が全く育っておらず身長も130cmと小さい。 姉なのに全く頼られないことや、体が小さすぎて手伝いも満足にできず非常にコンプレックスがある。 また小さすぎて目立てないことに悩んでおり、ナントカ目立とうとして悩んだ結果…… 何 故 か 厨 二 病 的 な ア ピ ー ル を す る よ う に な っ た 。 眼帯をしているが透ける素材であるため別に 失明しているわけではない。オッドアイを隠しているわけでもない。 趣味は魔導書探しと言う名の図書館通い。 何を血迷ったかイジューレ温泉編5日目に出会ったよく似た姿のラウラに弟子入り志願をしている。 恋愛には興味のあるお年頃。なのはの2つ下。 料理は壊滅的。何故か鍋ごと爆発させてしまう。 ちんこ姉 -- 名無しさん (2016-06-06 18 20 41) 名前 コメント
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高町なのは:田村ゆかり フェイト・テスタロッサ・ハラオウン:水樹奈々 八神はやて:植田佳奈 スバル・ナカジマ:斎藤千和 ティアナ・ランスター:中原麻衣 エリオ・モンディエル:井上麻里奈 キャロ・ル・ルシエ:高橋美佳子 リーンフォースⅡ:ゆかな シャリオ・フィニーノ:伊藤静 ヴィータ:真田アサミ シグナム:清水香里 シャマル:柚木涼香 ザフィーラ:一条和矢 ヴァイス・グランセニック:中村悠一 グリフィス・ロウラン:箭内仁 アルト・クラエッタ:升望 マリエル・アテンザ:阪田佳代 ルキノ・リリエ:ゆかな ヴェロッサ・アコーズ:小野大輔 ユーノ・スクライア:水橋かおり ヴィヴィオ:水橋かおり 寮母アイナ:高森奈緒 ギンガ・ナカジマ:木川絵理子 ゲンヤ・ナカジマ:大川透 ラッド・カルタス:柿原徹也 カリム・グラシア:高森奈緒 シャッハ・ヌエラ:阪田佳代 リンディ・ハラオウン:久川綾 レジアス・ゲイズ:石原凡 副官オーリス:桑谷夏子 ミゼット:清水香里 ジェイル・スカリエッティ:成田剣 ルーテシア:桑谷夏子 ゼスト:相澤正輝 アギト:亀山真美 ウーノ:木川絵理子 トーレ:木川絵理子 ドゥーエ:又吉愛 クアットロ:斎藤千和 チンク:井上麻里奈 セイン:水橋かおり セッテ:桑谷夏子 オットー:伊藤静 ノーヴェ:斎藤千和 ディエチ:升望 ウェンディ:井上麻里奈 ディード:伊藤静 デバイス レイジングハート、レイジングハート・エクセリオン:Donna Burke バルディッシュ、バルディッシュ・アサルト:Kevin J.England グラーフアイゼン:柿原徹也 レヴァンティン:柿原徹也 クラールヴィント:Alexandra Haefelin マッハキャリバー:Kaoru Edo クロスミラージュ:Jamie Schyy ケリュケイオン:Kaoru Edo ストラーダ:柿原徹也 ストーム・レイダー(ヘリのAI):Joanna Day 1話 局員A:遠藤圭一郎 局員B:伊丸岡篤 5話 老人:杉崎亮 老婆:近野真昼 10話 警邏職員:遠藤圭一郎 謎の少女:水橋かおり 15話 オーリスの部下:遠藤圭一郎 評議長:林理幹 16話 チンク:井上麻里奈 セッテ:桑谷夏子 レジアスの部下:小林かつのり 司令:遠藤圭一郎 17話 オットー:伊藤静 ディード:伊藤静 研究員:遠藤圭一郎 18話 ニュースレポーター:遠藤圭一郎 20話 ミゼット:清水香里 ドゥーエ:又吉愛 評議長:林理幹 議員:遠藤圭一郎 21話 通信士:又吉愛、遠藤圭一郎 作品一覧 ま行 アニメ一覧:ま行?
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本局に対するスカリエッティの『部下』による襲撃事件。 クロノ提督と、駆けつけた機動六課武装隊員によって撃退され一応の収束は したものの、事は既に本局すらも巻き込む事態へと発展していた。 『三提督を本局に召還しようという声が出始めている。次元航行部隊を事件解 決に当たらせようとする意見も』 次元間長距離通信において、クロノは事件後の本局がどうなっているかを義 妹であるフェイトに伝えていた。事件発生から一週間も過ぎてはいないが、時 間は刻々と流れている。 「そんなことしたら、地上本部との対立が激化して内部抗争に発展する」 地上本部のレジアス中将は、時空管理局本局及び次元航行艦隊を嫌っている。 ここで本局がスカリエッティ事件への介入姿勢を見せれば、それを本局の専横 と判断して抗議と妨害を行うだろう。 『あるいは、スカリエッティの狙いはそれだったのかも知れない。情けないこ とに、我が組織には頭でっかちでプライドの高い人間が多い。本局内への襲撃 は、顔に泥をはねつけられたようなものだ』 クロノの推測は全く外れているのだが、彼にしてみればギンガが言った理由 など信じるに値しないし、信じられるわけがないのだ。 敢えてそこには言及せず、フェイトは今後の対応を協議した。 『六課は今まで通り、スカリエッティの捜索を。奴の方からまた接触があるよ うなら、すぐに連絡をくれ』 「わかった」 『それと、ギンガ・ナカジマの件だが』 急に、クロノの顔が険しくなった。 『あれに対しては殺す気でかかれ』 「クロノ……」 『あの女はもう父親殺しで、それも自分の意思で行っている。捕縛して軍法会 議に掛かれば、処刑は免れない。だったらせめて、悔いのないようにしてやれ』 プライドが高いのは、どうやら義兄も同じのようだ。クロノの口調と表情か ら、彼がギンガに手も足も出ずに完敗したことを気にしているのは明白だった。 だが、それを抜きにしてもクロノの言っていることは正論だろう。 ギンガは自分の意思で、父親を殺した。 彼女に何があったのか、それは親子の会話を聴いていたクロノから、大体の ことは判った。けど、ギンガがどんな想いで、如何なる心情を持って父親を手 に掛けたのか……それは妹のスバルですら判らない、ギンガの持つ心の闇だっ た。 スバルはあれ以来、部屋から一歩も出てこない。友人であるティアナすらも 近づけず、閉じこもっている。事情を考えれば無理からぬ話だが、状況を考え るとこのままでいいはずがない。 「今のままじゃスカリエッティに、勝てない」 次々に仲間を失いつつある機動六課において、フェイトは辛い立場にあった。 第17話「ノーヴェの悲劇」 本局と地上本部を手玉に取ったスカリエッティとその一味ではあるが、フェ イトの危惧とは裏腹に、その内部はガタつきつつあった。 理由は簡単、ギンガ・ナカジマの存在である。最近になって一味に加わった とされる彼女は何かと横柄な態度が目立ち、ナンバーズと対立していた。元々、 スカリエッティを除けばナンバーズの姉妹しかいない女所帯だ。そこに姉妹で もない新たな女が現れ、しかも性格が悪いと来れば快く思うはずがない。ノー ヴェは勿論、トーレでさえギンガには不快感を示している。興味を示さないの は、セッテぐらいである。 「何なんだあいつは! 確かに連れてきたのはこっちかも知れないけど、好き 勝手にやりやがって」 批判の口火を切ったのはノーヴェであるが、大体は同意見だ。 「ドクターは、何故あいつの専横を許すのだ……本局に襲撃を掛けるなど、常 軌を逸している」 あくまで戦略的な部分でトーレは苦言を呈すが、事実、ギンガが勝手な襲撃 を掛けたことで本局の警備は今までとは比較にならないほど厳重となり、捕ら われたナンバーズの奪還という目的が遠のいてしまった。 ウーノとクアットロを除いて、捕らわれたナンバーズは本局に収監されてい ると思い込んでいる姉妹らは深刻そうな表情をする。 「ところで、何でウーノ姉様がここにいらっしゃるの?」 姉妹らが話し込んでいるのは基地内でもそれなりに広い空間だが、普段ここ をウーノが訪れることはない。故にクアットロは訊いたのだが、ウーノの歯切 れは悪かった。 「それは、ドクターがしばらく用事はないと言っていたから……」 「フッ、ドクターに部屋から閉め出されたわけか」 「なっ!」 トーレに鼻で笑われ、ウーノは顔を上気されるものの、それは図星であった。 スカリエッティは帰還してきたギンガを部屋に呼び、ウーノに退出を命じた上 で何事かをしている。かれこれ、半日近くになるだろうか? ルーテシアがは じめてここを訪れた時期を除けば、スカリエッティが他者に多大な時間を割く ことなどあり得なかった。 「よっぽどタイプゼロが気に入ったのかしらねぇ」 クアットロの何気ない言葉に、セッテ以外の姉妹から非難の視線が向けられ る。自分で作ったナンバーズには作品以上の感情を見せないドクターが、他者 の作った戦闘機人に入れ込んでいる。 これは、嫉妬だろうか? 親を取られた子供の独占欲か、それとも…… 「あら、皆さんお揃いで」 声は、姉妹らの背後からした。ウンザリした顔でトーレが振り向くと、案の 定そこにギンガがいた。バリアジャケットは着て折らず、管理局員の制服を綺 麗に着こなしている。 「何か用かよ?」 どうしても喧嘩腰になってしまうノーヴェだが、この時ばかりは誰も窘めな かった。 そんなナンバーズとギンガの様子を、遠目でゼストとアギトが見物している。 機動六課壊滅作戦以来、ゼストはルーテシアとアギトの勧め、というより半ば 強引な論調で、スカリエッティの秘密基地に滞在している。 「ギンガ・ナカジマ、か」 知らない少女ではない。それどころか、ゼストは彼女の妹や父親の存在も熟 知している。 クイント・ナカジマ、ギンガとスバルの義母にしてゲンヤの妻だった女性は、 ゼストが管理局の魔導師だったときの部下だ。その縁で、彼はギンガの幼少期 に幾度か顔を見たことがあるし、妹のスバルとも面識があった。 「あいつも、ルールーと同じってこと?」 「俺からすれば、そうなるな」 アギトの問いに、ゼストは重々しい声で答える。ギンガとルーテシアには生 い立ちも境遇も共通点など皆無に近いが、ただ一点、双方の母親が同僚だった。 つまり、ルーテシアの母親もゼストの部下だったのだ。ゼストがルーテシア を庇護し、共に行動をしているのにはそうした事情があるのである。ただ、ギ ンガの母であるクイントが死んでいるのと違い、ルーテシアの母であるメガー ヌは生きている。あれが、生きていると言える状態ならば。 かつて自分の部下だった女性たちの、娘たち。 それが今、こんな場所に揃っているのかと思うとゼストは複雑な気分になる。 「これも運命――か」 呟くと、ゼストはいきなり壁を強く叩いた。アギトは驚くが、ゼストは叩い たのではなく手をついたのだ。見れば、顔に脂汗が浮かび上がってきているで はないか。 「だ、旦那……やっぱり、むかつくけどアイツに診て貰った方が良いって!」 ゼストの体調は、このところ著しく悪くなってきている。身体機能の低下が 見られ、芳しいとは言えない。ルーテシアと、そしてスカリエッティ一味が嫌 いなはずのアギトがゼストにここに滞在するように強制しているのは、彼にゼ ストを診て貰う必要があると感じたからである。 だが、ゼストはそれを頑なに拒んでいる。 「大丈夫だ、俺はまだくたばりはしない」 ゼロとの戦いで使ったフルドライブのツケが回ってきたようだ。大事な一撃 を、自身の惑乱で使ってしまうとは……情けない限りだ。 しかし、過去の経験から、研究者という類そのものに嫌悪感を抱いているア ギトですら、こうしてスカリエッティに診て貰うようにと勧めている。それほ どまで、傍目に見て自分の状態は酷いのだろう。 「なら、いいけどさ……そ、そういえばアイツはどうなったのかな」 話題を変えるように、アギトが言った。 「あいつ?」 「ほら、この前旦那が倒した赤い奴だよ」 「ゼロのことか。奴は、無事救助されたらしい。叩き潰すつもりの一撃だった が、あれでも倒せなかったとはな、大した奴だ」 昔の自分なら、限界や時間の制約など気にせず、思うままに互いの武芸を披 露する戦いを興じたであろう。それほどまでの魅力が、ゼロの実力にはある。 けど、それをするだけの時間と力は、今のゼストに残されていない…… 「奴に、興味があるのか?」 「ま、まさか! ただ、ちょっと強かったからどうなったのかと思っただけだ よ!」 少しだけムキになって否定するアギトに笑みを見せながら、ゼストはギンガ とナンバーズらに視線を戻した。 「私は特に用はないけど、ドクターがね」 あっけらかんと、ナンバーズらが見せる不快感に気づきもしないような素振 りでギンガは口を開いた。 「少しぐらい、あなたたちとも話せって。面倒くさいって言ってるんだけど」 こいつは他人の気に触る発言しか出来ないのだろうか? ウーノが強い視線を向けるが、ギンガは一度視線を交わすと薄笑いを返して きた。 「私のことを嫌ってる連中と仲良くしようなんて、思うわけないのにね」 「そこまで判っているなら、その態度を変えてみたらどうだ」 トーレが前に進み出て、苦言を呈した。 「勝手な行動、横柄な態度と発言。嫌われるのには相応の理由があると、貴様 も判っているだろう」 正論だが、ギンガが感銘を受けた様子はない。 「私をボコボコにして、こんなところに連れてきた人間の言葉とは思えないわ ね。いいわよ? あなたが土下座でもしてくれるなら、仲良くしてあげても」 「なんだと……?」 怒気が渙発し、トーレの口調が強くなる。思わず、ノーヴェやクアットロと いった妹たちが後ろに下がったほどだ。 「そういえば、あなたにはあの時の借りをまだ返してなかったわね」 対するギンガも、鋭い殺気をトーレに向けた。魔力の波動が空気を揺らし、 威圧感を与えはじめる。 姉妹らが固唾を呑んで見守る中、二人は一歩前に出て―― 「その辺にしておきたまえ。君らが全力を出して戦えば、基地が壊れてしまう」 スカリエッティが、ルーテシアを伴いその場に現れた。 「しかし!」 声を上げるトーレの腕を、背後から誰かが掴んだ。見れば、無言無表情のセ ッテがそこにいた。 「ドクターの命令は、絶対です」 言葉に、トーレは怒気が冷めていくのを感じた。ギンガの方も、面白くなさ そうに殺気を引っ込めてしまった。 「それでよろしい。ゲームの再開前に、喧嘩は困るからね」 騒動を止めたセッテに軽い笑みを見せながら、スカリエッティは言葉を続け た。しかし、サラッと言った割りには聞き捨てならない内容だ。 「再開って、ゲームって終わったんじゃないのかよ?」 ノーヴェが彼女にしては珍しく呆れたような声を出すが、スカリエッティは 何を言っているんだと言わんばかりの顔をする。 「当たり前じゃないか。ゼロはまだ生きていて、健在だ」 それはそうかも知れないが、折角六課を壊滅させこちらの力を見せつけてや ったというのに、まだゲームなど続けねばならないのか。 ゼロを倒すよりも、ナンバーズを救い出し、本来の目的と目標を達成すべき ではないのだろうか? 「君は、自信がないのかなノーヴェ?」 「なに!?」 「戦って、ゼロを倒す自信だよ。まあ、無理もないか。あのチンクでさえ敗れ たんだ、君が勝てないと思うのも仕方が――」 瞬間、凄まじい速さでノーヴェがスカリエッティに詰め寄った。思わずトー レとセッテが反応するが、当のスカリエッティは危険を感じなかったらしい。 身長差から、上目遣いで自分を見ることしかできないノーヴェを見つめている。 「あたしは、負けない。負けることなんて、考えたことはない」 凄まじい気迫が、伝わってくる。あまり感情を見せないルーテシアも、興味 深そうにノーヴェを見ている。 「なら、次は君に任せるとしようか」 ノーヴェの頭に手を乗せようとするが、ノーヴェはそれを払いのけた。一瞬、 驚いたようにスカリエッティが動きを止めた。 「……ディード、君にも追々任務を与える」 隅に立っている少女は、無言でそれに頷いた。スカリエッティは周囲を見回 し、ナンバーズが一人足りないことに今更気付いた。 「ところで、ディエチはどこかな?」 「あぁ、ディエチちゃんなら例の王様のところです。ご飯でも上げてるんじゃ ないかしら」 元は自分に任されていたヴィヴィオの世話であるが、クアットロはまるで気 にせず答えた。スカリエッティも気にはしなかったが、ディエチも律儀な娘で ある。従順な性格だけに、きっとしっかり世話をしているに違いない。 「さて、次にギンガだが」 名前を呼ばれた当人以外が強い反応を示した。中でもウーノが、寂しげとも とれる視線をスカリエッティに向けていたことに、クアットロ以外は誰も気付 かなかった。 「君は、どうする?」 命令するわけでもなく、強制するわけでもなく、スカリエッティにとってギ ンガは部下という認識ではないらしい。 「私は、私の復讐を一つ終えた……ドクターに何かお願い事があるなら、何で も訊いてあげるけど?」 微笑むギンガに、スカリエッティは薄笑いを浮かべた。そして、ルーテシア の方に視線を向ける。 「では、君はこれからルーテシアと、そしてゼストと共に行動して貰いたい」 名前を出されたルーテシアが、スカリエッティを見上げる。抗議の意味では なく、少し意外だったからだ。 「ゼスト……? あぁ、ゼスト・グランガイツか」 遠くにいるゼストを見ながら、ギンガは呟いた。 ゼストのことも、ルーテシアのこともギンガは知っている。前者は亡き母の 上官で、後者は亡き母の同僚の娘だ。ルーテシアに会うのは確か初めてだった と思うが、ゼストは母の職場を見学に行った際に何度か会ったことがある。当 時の管理局にあって、剛勇、豪傑の異名を持っていた実力派の騎士だ。 「わかった、それじゃあ……よろしくね?」 ルーテシアに声を掛けるギンガだが、彼女は顔を背けてしまった。しかし、 少女の仕草に不快感を感じはしない。 ギンガは笑みを浮かべながら、その場を後にした。 ナンバーズの姉妹らも解散した後、自室に戻ろうとするスカリエッティをウ ーノが引き留めた。 「ドクター、何故タイプゼロにあそこまで肩入れをなさるのですか?」 我ながら直球な質問だと思ったが、回りくどい質問をしても無駄だろう。 そう考えたウーノであるが、スカリエッティは彼に似つかわしくない困った ような表情をした。 「そう見えるのかい?」 「私だけでは、ないと思いますが」 「なるほど、そうか……」 宙を見上げ、スカリエッティは思案顔を作る。 「実はね、私にもよく判らないんだよ」 「……は?」 「ギンガは、見ての通り私に従順で、好意的だ。少なくとも見かけはね。それ が何故なのか、私にはよく判らない」 よほど、突き付けた事実が衝撃的だったのか。嘘は言っていないし、誇張も していない。それでもギンガは、実の父親を殺した。 元々、他者の真意や心理を気にしない質であるスカリエッティも、ギンガの そうした内面には興味を持っていた。人は、あそこまで変われるものなのかと。 「しかし、修理する際に多少の強化をと思って改造をほどこしたが……強くし すぎたかも知れないな」 「意識改革も、その時になさったのですか?」 所謂、洗脳の意味である。 「いや、レリックの力に飲まれないように攻撃意識に手を加えはしたが、それ だって自己自制の出来る範囲内でだ」 「そうですか……けど、あの女に大事なレリックを使ってしまうなんて」 勿体ないと言うよりも、特別扱いをしているようで気に食わない。 今や、レリックの力を得たギンガはトーレに匹敵する実力者へとなっている。 彼女の態度も、実力ではナンバーズに引けを取らないと確信しているが故だろ う。 「レリックについては、実験のつもりだった。王に対して行う実験の練習みた いなものだ。第一、あれを使わなければギンガの再稼働は難しかった」 左腕に埋め込まれてはいるが、駆動機関に直結している。トーレとセッテが、 予想以上に痛めつけてしまったため、それしか方法がなかったのだ。 「けど、予想以上に良い出来になった。他者の作品に手を加えるのは嫌いでは ないが、あれは最高だ……」 そういえば、とスカリエッティは言った。彼は、ギンガがナンバーズに対し てこんな感想を言っていたのを、何故だかふと思い出した。 「ギンガは、君らを見て言っていたよ。とても、幸せそうだと」 『ゼロ、元気にしているかな? 本来なら、私が直接顔を見せるべき何だろう が、それは良くないとギンガに言われてね。こうしてメッセージを送るだけに しておくよ。用件は何かって? 何、ゲームを再開しようと思ってね。君のル ール違反も、六課壊滅の一件でチャラということにしてあげよう。ハハ、笑っ て水に流そうじゃない――』 映像を、途中でゼロは切った。険しい表情をする彼に、セインが不安そうな 表情を向ける。 「よくも、ぬけぬけと」 セインが持っていた端末を通じて送られてきた映像は、極めて挑戦的だった。 六課を壊滅させたことで、スカリエッティは敗北続きだった勝敗を均衡させた。 そのことはゼロも判っているが、ここでまたゲームを再開させるとは予想外で あった。 「そっちがその気なら、容赦はしない」 既に、ナンバーズの一機がガジェット部隊を率いて、このベルカ自治領内部 で何事かを行っているという。目的は不明だが、倒してスカリエッティへ続く 道を見つけ出してみせる。 方やセインは、スカリエッティが自分の端末に映像を送りつけてきてきたこ とで、彼が自分の生存を正確に認識していることを知った。知っているのは、 スカリエッティだけのか? それとも、他の姉妹も知っているのか。 いずれにせよ、ドクターが自分の存在を完全に捨てたことは理解した。 「どうするの……?」 不安が隠せいないのは、行き場を失ったと感じたからかも知れない。スカリ エッティに捨てられ、姉妹らにも突き放された。もう、開き直って裏切るしか ないのか? 裏切って、管理局に知っていることを全部話すしかないのか。 「出撃する。戦うしかない」 ギンガが出てくるのかと思ったが、彼女は本局での一件以来姿を現そうとし ない。早々に決着を付けたいが、そう上手く事は運ばないようだ。 「現場にいる、ナンバーズの情報は?」 「それは、わからない。ただ、一人だけ居るってことしか」 また、一人だけか。セインの話では、単体の戦闘技術からなる実力では、チ ンクより優れているのは三番のトーレぐらいなものだという。つまり、そのチ ンクを既に敗北させているゼロにとって、他のナンバーズはそれほど驚異には ならないと思われる。自己過信や油断は禁物だが、だとすれば敵は何故負ける ことが判っていながらゲームを続けるのか。意地がある、というわけでもある まい。 「あ、あの――私も」 出撃の意志を固めたゼロに、セインが声を掛ける。 私も、連れて行ってほしい。 喉まで出かかった言葉を、セインはかろうじて飲み込んだ。 捕虜である身の自分に、そんなことが許されるわけがなかった。 さて、スカリエッティの命を受けて出撃したのは、当人曰く待ちに待ったノ ーヴェであるが、折角出撃したにもかかわらず、彼女は不満げだった。という のも、ベルカ自治領内に派遣された彼女は、何か施設を壊すわけでも、制圧す るわけでもなく、 「そこ! あんまり強くやりすぎると一気に崩れるぞ!」 何故か、岩盤破砕用の装備を付けたガジェットを引き連れ、岩山の穴掘りを 行っていた。 「どうしてあたしがこんなことを……」 スカリエッティ曰く、この下にあるものが『埋まっているかも知れない』と いうことなのだが、それが何で、どういうものなのかは教えてくれなかった。 不明確な情報で良く分からない作業をする、苦痛すら感じることだ。 「ドクター、怒ってるのかな」 彼の手を振り払ったとき、ノーヴェは自分が悪いことをしてしまったと後悔 した。彼女は口は悪いが、決してドクタースカリエッティが嫌いなわけではな い。親のようなものだと思っているし、姉であるチンクからは自分たちがスカ リエッティの望みを叶えるために存在するのだと教えられてきた。 嫌われたくない。好かれなくても良いが、嫌われたくはない。 自分が可愛げのない奴だとは判ってはいるが、今更可愛らしくなど振る舞え ない。無理にしたところで結果は見えている。 「あたしは、あたしのやり方でやるしかない」 ウーノやクアットロのように側近としてドクターの役に立てるわけでも、ト ーレのように圧倒的な実力を持っているわけでもない。ディエチのように従順 でもなければ、セッテのように無感情に忠誠を誓うことも出来ない。だから、 ノーヴェはスカリエッティとの接し方に悩んでいた。チンク、セイン、ウェン ディと仲の良い姉妹を相次いで失った彼女は、誰に悩みを打ち明けるわけでも なく、一人悩み続けていた。 「あっ、そんなに乱暴に岩を砕くな!」 命令したところで、単純作業は出来ても繊細なことなど何一つ出来ないガジ ェットだ。強弱の付け方にしたところで大雑把であり、ノーヴェは頭を抱えた くなった。発掘なのか採掘なのかは良く分からないが、さっさと終わらせて、 さっさと帰りたい。 「帰ったら、ドクターに謝る……そ、そんなことできるもんかっ」 激しく首を横に振るノーヴェだったが、このわだかまりを何とかするにはそ れしかないように思える。 故にノーヴェは悩むが、悩むだけに終わった。 彼女がスカリエッティの元に帰ることは、なかったのだから。 突如、爆発が起こった。 「なっ、なんだ」 遠くで作業をさせているガジェットたちが、次々に吹っ飛ばされている。 何かが、いる。 「あれは……まさか!」 いそいそと作業に勤しんでいたガジェットたちが、応戦する間もなく倒され ていく。 間違いない、あれは――あれは! 「全部隊、攻撃モードに変更。戦闘態勢」 ノーヴェは脚部のジェットエンジンを起動させる。ギンガやスバルのデバイ スによく似たこれは、その通りギンガのブリッツキャリバーを参考にスカリエ ッティが強化改造したものだ。 「エアライナー!」 ウイングロードによく似た、エネルギーの帯が発生する。ジェットエンジン を加速させ、ノーヴェは目標に向かって駆ける。 ガジェットによる反撃がはじまる中、敵は剣を振るい、銃を撃ってはこれを 迎撃している。ガジェットなど最早敵にもならないとでも言いたげに、凄まじ い力を見せつけている。 そんな恐るべき相手に対してノーヴェは、 「砕けろっ――ブレイクライナー!」 ゼロに向かって、ブレイクギアによる足蹴りを直撃させた。 打撃による強烈な一撃に、ゼロは近くにあった巨岩へと叩き付けられた。 「接近主体のナンバーズか!」 今までにない戦闘スタイルの相手に、攻撃以上の衝撃を受けているゼロだが、 いつまでもそうしているわけにはいかなかった。 「死ねぇっ!」 続けざまに繰り出される足蹴りを、ほとんど転がるように避けるゼロ。足蹴 りが直撃した巨岩が、音を立てて崩れた。見れば、脚部装備にギンガのリボル バーナックルによく似た武装が施されており、あれが岩をも砕く破壊力を発揮 しているらしい。 「スカリエッティの居場所を教えて貰う」 バスターショットを放つゼロだが、岩ぐらいしか遮蔽物のない空間において、 ノーヴェの能力は遺憾なく発揮されている。エアライナーで縦横無尽に駆け回 り、素早い動きでゼロを翻弄している。 「ガンナックル!」 連射速度も、発射弾数もゼロのバスターとは桁が違うエネルギー弾が発射さ れた。右手の甲から放たれる高速直射弾に対し、ゼロもバスターで応戦するも のの、数の差ですぐに圧倒された。 「名前を訊いておく!」 ゼットセイバーを抜き放ちながら、ゼロが叫んだ。 対するノーヴェも高速移動を続けながら、ゼロに向かって叫び返した。 「あたしはナンバーズ9番ノーヴェ、破壊する突撃者ブレイクライナー!」 ゼロとノーヴェの戦いは、スカリエッティの秘密基地においてはスカリエッ ティとクアットロが、機動六課の仮隊舎状態となっている聖王教会の施設では フェイトとシャーリー、それにリインとセインがそれぞれ見つめていた。 「ゼロ、まさか一人で出撃するなんて……」 セインの監視を頼んでいたはずのゼロがいなくなったことを不審に思ったフ ェイトは、セインを詰問してゼロの所在をただした。すると、彼女は言いにく そうにゼロがたった一人で出撃した事実を漏らしたのだ。同時に、ゼロが機動 六課壊滅の責任が自分にあると思い悩んでいたことも、告げてしまった。 「でも、今までだってナンバーズ相手に連戦、連勝だったから大丈夫じゃない ですか?」 画面上で激しく戦う両者の映像を見ながら、シャーリーが口を開いた。 「そう思いたいけど……この敵、凄く強い」 実力や戦闘技術で言えば、間違いなくゼロの方が上だろう。しかし、何と言 えばいいのか、荒々しい攻撃に含まれる気迫のようなものが、凄まじく強い。 洗練された攻撃が、無我夢中の反撃に撃ち破られることは決して珍しいことで はないはずだ。 「ノーヴェ……」 仲の良かった妹が奮戦する姿を見て、セインはいたたまれない気持ちになっ た。六課が壊滅してしまったことで、ゼロはもう容赦なくナンバーズを倒しに 掛かっている。馬鹿げたゲームをさっさと終了させ、スカリエッティへと剣を 突き付けたいのだ。 フェイトの危惧はもっともだが、それでもセインはゼロがノーヴェに負ける とは思わなかった。必ず勝つ、勝って、その上でノーヴェが抵抗を止めなけれ ば、ゼロはノーヴェをどうするか…… セインは、決断せざるを得なかった。 「お願いが、あるんですけど」 眼前に進み出てきたセインに対し、フェイトは困惑気味の表情を作った。 「あたしを、戦場に行かせてください!」 思いがけない頼みに、リインが驚きの視線をフェイトに向けた。 「……どうして?」 「戦いを、止めたいんです!」 意地と意地のぶつかり合いといっていい戦闘は、見るに耐えないものだった。 ギンガの一件が、常に冷静なゼロの心理に負担を与えているのは明白であり、 ノーヴェまたも、自ら後ない状況にまで自分で自分を追い込んだが故に、我が 身も省みない攻撃を続けている。 「止められるの? あなたに」 「あの子は、ノーヴェはあたしの妹です。あたしの言葉なら、耳を貸してくれ ます!」 フェイトは眼を細め、シャーリーが見たこともないほどの冷たい視線をセイ ンに向けた。怯みそうになるセインだが、何とか踏みとどまった。 三十秒ほど、それが続いただろうか? フェイトは一度目を閉じると、大き なため息を付いた。 「お願い……ゼロを止めてきて」 こんな悲しい戦い、フェイトだって見ていたくないのだった。 ゼットセイバーとブレイクギアが激しくぶつかり合い、火花を散らしていく。 攻撃の鋭さ、キレ、正確さ、どれを取ってもゼロの方がノーヴェの数段上をい っている。 だが、フェイトが感じたように、ノーヴェの気迫から繰り出される強烈な一 撃は、俄にゼロを圧倒していた。 「お前を倒して、チンク姉たちを取り返す!」 確かな目的があるノーヴェは、それを掴むために必死だった。絶対に負ける わけにはいかないという想いが、力強い原動力となっている。対するゼロも、 ナンバーズを打ち倒してスカリエッティと、そしてギンガを倒さなければいけ ないという自己への制約があった。 苛烈な攻撃の応酬を続ける二人だが、どちらも決定打を見出せずにいた。一 撃、一撃に双方を打ちのめすだけの力が込められているはずだが、どちらも痛 みを感じていないのかと錯覚するほどの戦いになっている。 「――ッ! まだまだぁっ!」 しかし、やはり基本性能と経験から来る実力差は埋めようもない。ぶつかり 合う度、ノーヴェの身体にダメージが蓄積されていく。それでも気力を振り絞 って何とか互角の戦闘に持ち込んでいるのだが、限界は確実に近づきつつあっ た。 「砕けろ、砕けろ、砕けろっ!」 連続して繰り出される足蹴りを、ゼロは尽くセイバーで弾き飛ばした。一つ 間違えば、足が斬り落とされるかも知れないのだ。ノーヴェの心に恐怖はあっ たが、それでもそれを打ち消して戦っている。 「勝つんだ、絶対に勝って、チンク姉を! そしてドクターに!」 今度こそ、認めて貰うんだ。 エアライナーを駆け上り、ノーヴェは最大限に力を込める。 「くらぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 高く上って、急降下。弾丸、いや、ミサイルのような勢いでノーヴェがゼロ に迫った。 「――――そこだ!」 一瞬の攻防が、勝敗を決した。 ゼロの持つセイバーが、ノーヴェのブレイクギアの片方を、斬り砕いた。 「うわぁっ!?」 正確にブレイクギアだけを破損し、バランスを失ったノーヴェは地面へと叩 き付けられた。 何とか起ち上がろうとするが、ゼットセイバーの切っ先が眼前に突き付けら れ、ノーヴェは硬直した。 「終わりだ。スカリエッティの居場所を教えて貰う」 「誰が教えるかよ!」 双方が引けぬ理由を持っているが、この状況でノーヴェのそれは虚勢だろう。 現に倒れたことでいくらか戦意を喪失した彼女の表情には、僅かな怯えの色が 見えた。 「殺すなら殺せ! あたしは死んでも、何も言わない!」 度胸だけは立派であるが、それを汲んでやるようなゼロではない。彼は無言 でセイバーを振り上げ、ノーヴェは覚悟を決めた。 「待って!」 そこに、セインが駆けつけた。 「セイン――!?」 驚愕に、ノーヴェの表情が劇的に変化する。その声を聴いたゼロも、セイバ ーを振り上げた腕を止めた。 「何故、お前がここに?」 「フェイトって人に許可は貰った……ゼロとノーヴェを、止めに来た」 言って、セインはノーヴェへと歩み寄った。未だに驚きを隠せないでいる彼 女の前に屈んで、手を差し伸べた。 「立てる? ノーヴェ」 「セイン、どうして……管理局の本局にいるんじゃ」 ノーヴェの反応から、自分がどういう境遇にあったのかを知らないことに、 セインは気付いた。つまり、スカリエッティはノーヴェにも嘘をついている。 「どうしても何も、私はこうしてピンピンしてるよ。囚われの身ってのは事実 だけど、本局には行ってない。勿論、チンク姉もね」 「でも、ドクターはセインが自爆して、それでこいつを倒そうとしたって!」 「やっぱり、そんなデタラメな嘘を言ってるんだ……」 寂しさの滲み出る声と表情で、セインは呟いた。ノーヴェを立たせ、スーツ に付いた誇りを払ってやる。 「いいよ、全部教えてあげる。ドクターがあたしに、あたしたちに何をしたの かってことを」 セインの登場に一番驚いたのは、スカリエッティであったのだろうか? 彼 は複雑そうな表情をモニターに向けていたが、口に出しては何も言わなかった。 「あらぁ、セインが出てくるなんて予想外ー。このままじゃ、ノーヴェちゃん が籠絡されちゃう?」 意地悪そうな目で、スカリエッティを見るクアットロ。 「やはり……ダメかな?」 「ノーヴェちゃんは、セインに頭が上がらないから」 セインは、番号の近いチンクと懇意の中だった。チンク自身もセインを大切 な存在に想っていたようで、一つ上の姉でありながらも、セインとは対等の立 場を気付き上げていた。兄妹以上の仲にも見えたとは、ウェンディの言葉であ る。故にノーヴェは、そんなセインに対し呼び捨てで呼びはするものの、チン クの次に信頼し、敬意を払っていた。 「なるほど、そうか」 「どうします?」 クアットロが何を言いたいのかは、判っていた。モニターに映るノーヴェと、 先ほど振り払われた片手を、スカリエッティは交互に見て……やや、投げやり に言った。 「君に任せる、好きなようにしてくれ」 セインの口から次々に証される真実を、ノーヴェは唖然として聞いていた。 開いた口がふさがらないとは、このことか。俄に信じられる話ではなく、 「嘘だ、そんなの。ドクターが……そんな」 狼狽するノーヴェに、セインは悲痛そうな瞳を向けた。嘘をついている目で ないのは明らかだった。 セインごとゼロを葬り去ろうとしたディエチに、彼女に命令を下したスカリ エッティ。 「あたしは、ドクターに殺されかけた。あの人にとって、あたしたちは作品に 過ぎないんだ。壊すも捨てるも、あの人は平気でやる」 「だけど、それは」 「どうしてドクターが、私を含めたナンバーズの奪還に本気を出さないのか、 興味がないんだよ、必要性を感じないんだよ!」 セインは、スカリエッティの本質を捉えていた。彼にとって、ナンバーズと は作品であって物なのだ。ルーテシアのような元が人間の少女とは違い、スカ リエッティは姉妹の存在は認めていても、人権は認めていない。 だから、心に痛みを覚えず処分が出来るのだ。 「ノーヴェ、あたしと一緒に来て。このままドクターの所にいれば、ノーヴェ だっていずれは」 「そんなの、急に言われたってわかんないよ!」 訴えるセインに、ノーヴェは頭を抱えて叫び返した。セインがじっくりと認 識していった現実を、一瞬で理解することなどノーヴェには不可能だった。 ドクターは、あたしを、あたしたちを何とも思っていない? そんな馬鹿なこと、馬鹿なことが―― 『ハァ~ィ、ノーヴェちゃん聞こえる~?』 いきなり、クアットロの声がノーヴェの頭に響き渡った。 「クア姉!?」 『悩んでるみたいねぇ……』 「セインの言ってることは、本当なのか?」 ノーヴェの様子がおかし事に、セインとゼロは気付いた。クアットロの声は、 二人には聞こえていないのだ。 『本当だったら、どうするの?』 「そんなこと……」 『迷いがあるなら、消してあげても良いわよ?』 頭に響くクアットロの声が、急に冷たくなった。 「えっ?」 『こんな風に、ね!』 瞬間、激痛とも取れる痛みがノーヴェの頭に伝わってきた。 「クア姉……!?」 感情が増幅し、破壊され、意識が飲み込まれていくのをノーヴェは感じた。 「ノーヴェ!」 セインが駆け寄ろうとするが、ゼロがそれを止めた。感じたことのないほど、 強大な怒気がノーヴェから発せられていたのだ。 涙まで溢れている瞳に色はなく、表情が怒りに歪んでいく。 コンシデレーション・コンソール。 戦闘機人の自我を喪失させ、特定の感情だけを増大させる一種の洗脳技術。 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 ノーヴェが吠え、片足のブレイクギアで蹴りこんできた。ゼロは咄嗟にセイ ンを抱えてそれを避けると、セイバーを構え直す。 「そんな、どうして!?」 変貌振りにセインが愕然とするが、外部から何らかの操作をされたのは明ら かだった。 セインのことすら躊躇せず、攻撃を仕掛けてくる。 「死ね、死ね、死んじまえぇぇぇぇぇぇ!」 ガンナックルを連射し、セインを庇えないと判断したゼロは全弾を背中に受 けた。でなければ、セインに当たったから。 「ゼロ!」 「動くな、怪我をしたいのか」 いくらゼロが強いと言っても、攻撃に痛みを感じないわけがない。顔には、 苦悶の表情が浮かんでいる。 「あの状態を、解く方法は?」 「わ、わかんない。あんなの初めてで」 「なら、倒すしかない」 非情な決断が、ゼロの口から出された。 「待って、話せば、話せばきっと!」 もう遅い、もう無理だと、セインも理解している。しているのだが、納得す ることが出来ない。 こんな、こんな結末、あんまりだ。 だけど―――― 「お願い、ゼロ」 セインの声が、震えている。涙で、悲しみで、怒りで、震えている。 「ノーヴェを、あの子を助けて!」 戦いは、ノーヴェが動けなくなるまで続いた。斬っても撃っても、ノーヴェ は戦い続けた。泣きながら、叫びながら、腕を振るい、足を蹴り上げ、モニタ ー越しに見ていたシャーリーとリインが思わず顔を背けてしまったほどで、フ ェイトも顔を背けたくて堪らなかった。 ゼロのチャージ斬りが直撃し、ノーヴェはその動きをやっと止めた。 崩れ落ちる彼女の身体を、セインが抱え込んだ。 「ノーヴェ、ノーヴェ!」 妹の名を叫ぶセインに対し、激しい、激しすぎる戦いを続けたノーヴェは、 苦しそうに瞳を開けた。 「セイン……」 弱々しい声だった。既に、コンシデレーション・コンソールを受ける前に、 ノーヴェは限界だった。それを一切無視して、彼女は限界を超えた戦いを無理 矢理行わされたのだ。 もう、ノーヴェには喋るどころか、瞳を開ける気力すら残っていなかった。 「セイン、あたし」 だけど、それでも、ノーヴェは口を開き言葉を発した。 「嫌われたく、なかったんだ。ドクターにも、みんなにも」 チンクやセインがいなくなり、精神的な孤独を感じていたノーヴェにとって、 スカリエッティにまで見放されるのは、居場所を失うも同然だった。 「なのに、どこを間違えたのかな」 嫌われたくない、そう思っていたのに、セインが現れ、その口から真実が語 られたとき……ノーヴェは何もかもが判らなくなった。 「あたしって、本当に」 馬鹿だよな。 ノーヴェがその言葉を発することは、なかった。 全ての力を使い果たし彼女は、そのままゆっくりと、瞳を閉じた。 つづく 前へ 目次へ 次へ
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,、 __ _| ` ̄ ` >、 /ー-' l \ . / ハ ト ヘ l i ト l x―l‐\ ヘ l | l l 个l l ,ゝ⌒ヾ\ .ヘ. l |∧ ∧ l ヽ l ハ l/| \ヘ、l |' l l \l |ヘ{ マ_| l  ̄l | l ト Z≠ミ /// l ト l ナンバーズ、ナンバー6、セイン! .ヘ l /// ヘ ,/ / l ヽl ヘll 廴 _ マ__ //,イ / | よろしくね! ヘ  ̄「ヽ 「/' l /ヽ、 ヘ |ゝ∨}/ l / \ ∧ l, 介.、 l / ヽ / \ ∨l l ヽ l / ∧ 〈 \{ l∨ ' / ー、 / `ー、 | l _,イ l 〈 廴__ | l / ̄ | ; - ' 〉 〔 ̄\_ハ ヽl l |/ \ / , /ヽ-┬‐' .l l l | ー ´ \ 高町セイン 高町十二姉妹の六女。 チンク、セッテ、オットーとの4つ子で生まれた。 初出はイジューレ温泉編5日目。 ドジっ子。なにもないところで転ぶは朝めし前。 でもドジっ子と認めない。 明るくお姉さんぶりたいお年頃。 子犬タイプ。胸はそこそこ。並。 ドジな割に細かい作業が得意。 名前 コメント
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阿鼻叫喚、地獄絵図、それが眼下に広がる光景を例えるのに最も適した言葉だろう。ラボ周辺から市街地までの距離を考えても、オットーが着いて数十分と経っていない。 だというのに、街には既に火の手が上がり、誰もが混乱の最中にあった。 転がるのは頭を割られた死体、中心から力任せに左右に引き裂かれた死体等、様々である。 腹に風穴が空いた死体はその割に出血が少ないが、よくよく見ると、穴の周囲が焼け焦げている。戦闘機人でさえ、その惨状を前に僅かとはいえ絶句した。 「レイストーム……」 光線に貫通されればこういった死体が出来上がる。それはオットーがあのような姿になってなお、ISを使用していることを示していた。 デモニアックと化したオットーは浮遊しつつ周囲を見回している。 それを見下ろせるビルの屋上、そこに九人の戦闘機人は集う。 「チンク……あれはまだオットーなのか……?」 問うトーレに対し、チンクは唇を噛み締め、無言で俯いている。 それが答えだった。あれは最早自分達の知るオットーではない。戦闘機人ですらない。死と破壊を撒き散らす悪魔だ。 「それでトーレ姉……どうするの?」 そう言ったのはセイン。気づけば全員の視線がトーレに向いている。特にディードのそれは指示を仰ぐものではなく、トーレのある言葉を懇願していた。 トーレは数秒間思案した後、 「捕獲を試みる。ただしオットーだと思ってかかるな。四肢を中心に攻撃、破壊しろ」 捕獲という決定を下した。我ながら甘い判断だと思う。ディードの視線に負けたというのもあるが、甘いと思いつつも、何もせずに切り捨てることはしたくなかった。 あからさまに不満顔のクアットロを除いた他の姉妹は、やや不安そうに頷いた。それを確認して、トーレも指示を出す。 「私とセッテが左右から仕掛ける。ウェンディとディードは正面から援護、ノーヴェは地上から奇襲、セインとチンクは二人で背後に回れ。 クアットロは接近するまでの撹乱、その後の指揮は任せる。ディエチは指示があるまで狙撃態勢で待機。以上だ」 クアットロとディエチを残し、姉妹は散開する。オットーを殺すのではなく、助ける為に。 果たしてそんなことが可能なのかと、トーレは自分の判断を疑った。 これだけ殺しておいて、おめおめと戻ってくることができるのか。そんなことが許されるのか。 戦うことしかしてこなかった自分達が、これまでにも多くの命を奪っておいて、姉妹だけは救いたいなどと望んでいいのか、と。 「トーレ? トーレ、行きましょう」 セッテは既にブーメランブレードを両手に構えていた。トーレもすぐに気持ちを切り替える。こんな時は迷いのない彼女が少し羨ましい。 「あ……ああ、行くぞ!」 ※ トーレとセッテは急降下、オットーへ踊りかかる。それを号令にして、ウェンディとディードも中距離へ。 周囲にはトーレ達の幻影が現れ、一足先に降りていたノーヴェは旋回しながら機会を窺う。 トーレは左、セッテは右から同時にオットーに仕掛けた。腕を潰す為にトーレは回し蹴り。セッテは足を切り落とす為にブーメランブレードを投げる。 正面にはウェンディとディードが居り、ウェンディはライディングボードから直射弾を発射。 後ろに逃げればチンクが罠を張り、下にはノーヴェ。ディエチは狙撃態勢で上から狙っている。 上下前後左右を塞いだ状態からはそう簡単には逃げられない、そう思っていただろう。トーレも、他の妹達も。 オットーが取った行動は戦術どころか、技ですらなかった。それは単純で強引な”動き”。 「なっ!?」 トーレが驚きの声を漏らす。 鋭い捻りを加えたトーレの蹴りをオットーは左手一本で受け止めた。同時に右手は迫るブーメランブレードへ。 それに気付いたセッテは直線的なブレードの軌道を曲げたが、放射状に放たれた光線によって弾かれる。 いかに軌道を変化させようと、最終的な目標部位が明らかなら、僅かな掌の動きで発射方向を修正できるだろう。 そこまでならさして意外ではなく、想定の範囲内。想定外はその先にあった。 ウェンディのエネルギー弾がオットーの胸に着弾。それは体表に傷を作ったに過ぎず、動きを止めるには至らなかった。 トーレの巻き添えを防ぐ為に強力な砲撃を避け、威力も抑えたが、それを差し引いても異常な強度の皮膚である。 オットーがトーレの足を掴んだ腕を振り下ろす。その力はあまりに強く、トーレは大きく回転した。 セッテによる二発目のブレードよりも素早く、オットーはディードとウェンディに飛ぶ。 オットーの機動力に二射目は間に合わないと判断し、ウェンディはボードを”砲”ではなく”盾”として使う。 ボードを倒し攻撃に備えた瞬間、オットーがそこへ突っ込む。 防御してもなお凄まじい衝撃に、ウェンディは身体ごと弾かれ落下する。 残されたのはディード。形こそ双剣を構えているが、戦意に乏しいことは明白だった。 「ディードォ!!」 叫びながらノーヴェはエアライナーを伸ばし、走る。しかし、どれだけ急ごうとも間に合いはしない。 オットーは一瞬にして距離を詰め、双剣を振り上げようとしたディードの両手首を掴んだ。 そして不可解な事に、じっくり舐め回すように顔を観察している。 「クアットロ! どうする!?」 隣でディードが指示を求めるように名を呼ぶが、答えはしなかった。 撃てるはずがない。どうしたってあの距離ではディードを巻き込む。 両方とも殺すつもりで撃たせるのが最善だが、どうせ言ってもやらないだろう。つまり、ここにいる自分達に打つ手はないということだ。 おそらく、このままディードは死ぬ。だから言ったのに、とばかりにクアットロは渋面を作った。 戦闘機人よりも、デモニアックよりも、強く、硬く、速い。なんのことはない、単にすべての能力が規格外であったというだけのこと。 戦闘機人を上回るほどの圧倒的な野性。スカリエッティが興味を引かれるのも分かる気がした。 いくら戦闘機人が機械に適合した素体として生み出され、頻繁なメンテナンスや副作用が解消されたとはいえ、結局は肉の身体。 大きな障害でないにせよ、多少なりと齟齬は生まれるものであり、調整も必要となる。 だがデモニアックは違う。もとより金属に近い身体を持ち、無機物と完全なる融合を可能にする存在。 機械と肉の垣根をいとも容易く飛び越え、その結果生み出される力はこの光景を見れば一目瞭然。 即ちデモニアックこそが戦闘機人の完成型。理想の姿であると言えよう。 「でも……まだ足りないわ……」 そう、これだけでは足りない。いくら強かろうと、鋼の身体を持とうと、制御できないのでは使えない。 デモニアックの身体を持ち、自分達のように命令を解し、自ら思考するのであれば或いは、それこそが究極の生命体と呼べるだろう。 そんな存在がいるのなら、是非一度お目にかかりたいものだ。 そう思っていると、その存在は自分からクアットロの前に現れた。 ディエチのイノーメスカノン、ノーヴェのエアライナー、セッテのブーメランブレード。それらが一点で交差する。 しかしディードを救ったのはその誰でもない。 豪快な噴射音に気付いた時、それはオットーとディードの目前まで迫っていた。 オットーの左側面から高速で飛来する黒く大きな物体。 それはバイクと呼ぶには巨大であり、どこか生物的で禍々しい。その上には一体化するように黒い影が隠れている。 バイクはオットーに対し速度を落とすことなく、逆に速度を上げて撥ね飛ばす。 横からの衝撃をまともに食らい、地面に叩きつけられるオットー。バイクはオットーから距離を取り、ノーヴェの前に降りた。 初めて全員が影の正体を確かめる。バイクに跨っていたのは黒い鬼。刺々しい鎧の全身には蒼い光の線が走り、右目だけが赤い。 多少形は違えど、それは明らかにデモニアックであった。 ※ 「ジョセフ、この娘達……」 「ああ、わかっている」 大型バイク『ガルム』に映るホログラフィの少女エレアが言いかけた言葉を、デモニアックの姿を取ったジョセフは途中で遮った。 戦闘機人。噂にしか聞いたことがなかったが、見た目には少女にしか見えない。 だが全員が武装し、飛行している者もいる。何よりデモニアックを前に逃げもしないことを考えれば、ただの一般人でないことだけは確か。 理由は分からないが、彼女達はこのデモニアックと交戦している。これだけ武装した戦闘員が集まって倒せない、眼前のデモニアックはそれほど手強いのだろうか。 疑惑と驚愕に満ちた視線を感じる。ジョセフは説明をしようとは思わなかった。彼女達が何者かは知らないが、自分はデモニアックを斬る、それだけだ。 「お前……何者だ?」 「……俺はお前達と戦うつもりはない」 ジョセフはリーダーらしき年長の女にそう答えたが、彼女はまだ納得いかないという風な顔をしている。しかし構うものか、どの道援護は期待していない。 それに話している時間も与えてはくれなかった。起き上がったデモニアックは戦闘機人ではなく、ジョセフのみを見ている。 ジョセフは横目で頭上を仰ぎ見る。頭上の少女、特にデモニアックに捕らえられていた髪の長い少女は、完全に放心状態にあるようだった。 狙いがこちらにあるならいっそのこと、デモニアックを引きつけて離れる。放心状態の少女を巻き込むこともなければ、後ろから撃たれる心配もない。 ジョセフはアクセルを吹かし、急発進。案の定、デモニアックも追ってくる。 ジョセフは内心動揺を禁じ得なかった。驚くべきことに、敵は全速のガルムのスピードに脚力のみで並走している。 通常のデモニアックならあり得ない、一部例外を除けばブラスレイターでも不可能なことだ。 追いすがるデモニアックが手刀を振り下ろす。左手はハンドルを操りつつ、ジョセフは右掌を振りかざした。 受け止めるでもなく、手刀が触れる寸前で掌が光を放ち、そこに剣が生まれた。 刀身はわずかに湾曲した片刃、シミターと呼ばれる類の曲刀。生まれた剣はうねり、ジョセフの手に握られる。 「はあああっ!」 手刀を気勢を込めて剣で薙ぎ払うジョセフ。 手応えはあった。硬く高い、金属質の手応えが。 通常なら腕が飛んでいるか、そうでなくとも体勢を崩す程度のことはできる。しかし結果はどうだ。斬れるどころか互角に競り合い、恐ろしい力で押され始めた。 「ちぃぃいっ!」 ジョセフはハンドルを握る左手も添え、両腕の膂力でもって押し返す。全力で剣を振ると、デモニアックはバランスを崩したが、ジョセフも大きく揺らいだ。 独楽のように回転するも、不思議と転倒することはない。両足を完全にガルムと一体化した為だ。 なるべく融合を使いたくはなかったが、使わざるを得ない状況まで追い込まれてしまった。 「ジョセフ、忘れたの? デモニアックの能力は元の人間に比例すること」 エレアの声で以前にも同じことがあったのを思い出す。あれは確か、木こりか何かのデモニアックだった。 大柄で、ブラスレイターの自分をも抑え込むほどの力があったのを覚えている。これは全てにおいてそれを上回っていた。 素体からして人間離れした身体能力、となれば大方の察しはつく。 「戦闘機人……」 彼女らがこれと戦っていたことから考えても、これも元は同類なのだと。 攻撃を弾いた結果、デモニアックとの距離が離れ一安心かと思いきや、デモニアックの右手に翡翠色のリングが現れる。 ジョセフはハンドルを切り、ガルムを急旋回。横転する限界までマシンを倒し、路面を削る脚部が摩擦で激しく火花を散らす。 ジョセフがスラスターを点火させるのと、リングから無数の光線が拡散して放出されたのはほぼ同時。 それは云わば経験に基づく勘。正体を知らずとも自然と危険信号が発された。 急加速によってほぼ直角に曲がったガルムに対し、歪曲して光線が迫る。皮肉なことに、曲線を描く軌道はさながら牙を剥いた大蛇。 「ジョセフ!!」 エレアの声で咄嗟に思い出す。ガルムに隠された機能を。 一条、また一条とガルムを追う光線は路面を抉る。誘導でもされているのか、爆発は確実に近づき、最後の光線がついにジョセフを捉えた。 しかし、光線がジョセフに届くことはなく、ガルムに当たる直前で拡散し、消滅する。気づけば周囲に薄いフィールドが張られていた。 「まったく……危なっかしいわ、ジョセフ」 スラスターの噴射による飛行と同じく、ガルムに備え付けられた機能の一つ。知ってはいたものの、自在には使えなかった機能でもある。 ジョセフは未だにガルムのスペックの全てを引き出せてはいない。今回もエレアのナビゲートが無ければ危うい状況だった。 「すまない、エレア」 「これ以上直撃したら流石に耐えられないわよ、それに……」 いつの間にかデモニアックは距離を詰めていた。ガルムに再び並走し、そして進行方向を見越しての跳躍。両手を組み合わせて振り上げたハンマーナックルの構え。 「あれは防げないわ」 先の攻撃で速度を落としていたガルムでは振り切れない。防御しても防ぐのはまず不可能。ならば、 「承知!」 ジョセフは一言エレアに返すと、握った剣を捨て、右手をかざす。掌には青い光。 ただし今度は剣ではない。伸びた光が鞭となって、蛇のように敵の脚に絡みつく。 ジョセフは力の限り光の鞭を引く。滞空しているデモニアックは抵抗できるはずもなく、地面に叩きつけられた。 誘導する光線を見ていなければ咄嗟に思いついてはいなかっただろう。 蛇、それは悪魔アンドロマリウスが持つとされるもの。そしてアンドロマリウスはジョセフのブラスレイターの象徴である。 叩きつけてもまだ終わりではない。ガルムを加速させ、立て直す余裕を与えない。 その間にジョセフは観察する。デモニアックは道路を跳ねながら、なんとか踏ん張ろうとしている。 その両手だけが鏡面の如く光を反射していた。すぐに何らかの金属と融合しているだと気付く。これで剣を防いだのだ。 ただの鉄やガラスならば剣で斬れないことはない、考えられるのは特殊な金属。ならば街中に転がっているものではなく、元々所持していたか、或いは”体内に仕込んでいた”か。 「斬れる……!」 たった一言呟いた。自らに言い聞かせるように。 融合して金属で手を覆っている、それは逆に考えればそのままでは受けられないという証。そして両手以外であれば斬れるということ。 それ以上の観察はデモニアックも許さなかった。バウンドしながらも立ちあがったデモニアックは足に絡む鞭を引き返す。 単純な力比べで勝てるはずがないと、危うく鞭を消すジョセフ。が、既に遅く、ガルムの向きは90°近くずれた。その先には、 「ジョセフ! 前!!」 ビルの壁が数メートルの距離まで迫っていた。エレアに言われるまでもないと、ジョセフは速度をわずかに殺し、前輪を持ち上げてタイミングを合わせる。 減速して方向転換していては、また追いかけっこの続きだ。光線も今度は避けられるか分からない。 タイヤが壁面を噛んだ瞬間、三度目の噴射。爆発的な推進力を得たガルムは無理矢理重力に逆らい、空を目指して壁面を駆ける。 「まだ追ってくるわ、ほんとしつこいんだから……。これは一筋縄で行きそうにないわね」 後ろを振り向く余裕はないが、エレアの声と音で判断できた。 飛行が可能なら付いてくるだろうとは思ったが、どうやら敵はこの曲芸走行にも付き合うつもりらしい。 断続的なガラスの割れる音。足場を力強く踏みしめる音が忙しなく続く。それが背後から聞こえると言うことは、つまりそういうことなのだろう。 やれやれ、と溜息混じりに言ったエレアの言葉に内心ジョセフも頷いた。 ※ 「なんだあれは……」 オットーと黒のデモニアックは現在、ビルの壁面を縦に走りながら戦っている。 同じく重力に逆らう行為。しかし飛行ではなく走行であるということが異様さを掻き立て、トーレを含むナンバーズを唖然とさせた。 突き出た障害物や窓は回避しながら走りつつ、それでいて攻撃が途切れることはない。 交わされる拳と剣。 一撃をいなして一撃を放つ。その応酬は激しさを増す一方で、目で追うのが精一杯だ。 速度を落とし、手を緩めれば決定的な隙を晒す。手足を止めれば死に繋がる。だから止められない。 屋上に差し掛かろうかという時、黒のデモニアックが進路を変えた。オットーを右に見ながら、バイクを横に傾ける。 上の様子がどうなっているか分からないなら、一片の隙も作りたくないのだろう。 壁を垂直に走ることに比べれば、横に走るのは格段に楽。尤も、あれなら天井であっても逆さに走りそうだが。 オットーも負けじと食い下がる。互いに窓を踏み荒らし、ガラスというガラスが砕け散るが、そんなことは障害にもならないらしい。 それはまさしく縦横無尽。さながら二人で一つの嵐。荒れ狂う暴風は近寄れば誰であれ、何であろうと吸い込み、切り裂く。 それほどに異形同士の戦闘は他者の介入を許さない。 「トーレお姉様。あれ、どうしますの?」 「クアットロか……」 どうするも何も、あれでは近寄ることすら難しい。それほど危ういバランスの上に成り立っている。 トーレの迷いを見抜いたのか、クアットロが呆れたような声で言う。 「お姉さまぁ、オットーはもうあのデモニアックに任せておいたらいかが?」 なんなら両方ディエチちゃんでふっ飛ばしちゃいますか? とでも言うかと思ったが意外と大人しい発言だった。 「それでもいいんですけど……あのデモニアック、ドクターが知ればきっと興味を持つと思いまして」 だろうな、と素っ気なく返事をした。今頃この状況を嬉々として見ているに違いない。 だが、今はどうやってオットーを止めるかが先だろうとトーレはしばし熟考に入る。 「あれが我々を攻撃しないという確証はないが……あれが倒されたら、結局は我々が戦うことになる。 それまでにオットーが消耗していなければ勝ちは薄いかもしれない。あれの手にも余るようなら、いっそ共闘しよう」 あれ、というのは当然、黒のデモニアックである。戦闘の様子を見ていると、先に息切れするのはそちらの方だと考えた。 「どうせなら利用する、と仰ればいいのに」 彼女らしい発言に、同じことだ、とトーレも返す。 「どちらにせよ、もう捕獲は諦めた方がよさそうですわ」 「そうだな……」 その先を口にするには勇気が要った。自分の一言で姉妹達はオットーを敵と認識し、殺す。それがどれほど重いことか、なまじ宿った人間性を呪いたくなった。 クアットロは言わずもがな、セッテやチンク、ディエチも内心ではわかっている。 状況を考えればノーヴェやセイン、ウェンディも渋々ながら納得するだろう。しかしディードはどうだろうか。 時間に差はあれど、仮にもこれまで姉妹を見守り鍛えてきたと自負していた。ディードとオットーの関係に関しても理解しているつもりだ。 いっそのこと、オットーを放置しておくという考えが頭を過ぎる。 あの戦闘力だ、魔導師達やXATに壊滅的深手を負わせる可能性は十分にある。始末もできて一石二鳥、とまで考えて、 「……何を考えているんだ私は!」 馬鹿げた考えだと、頭を振って一蹴する。そんなことをそれば、オットーは魔導師に止められるその時まで、更なる破壊の限りを尽くす。 既に数十はゆうに越えている民間人の死者が幾百になるか知れない。 スカリエッティの命ならばともかく、トーレ個人としてそれは容認し難かった。 自分達はスカリエッティの手駒となって人を殺すこともある戦闘機人だが、無差別な虐殺を撒き散らす悪魔ではないのだから。 「トーレ、オットーを破壊しましょう」 「セッテ……」 隣に立ったセッテはトーレを見ない。正面を、戦闘だけを見て、冷静に分析している。 「私と貴女で再度挟撃を。あのデモニアックも加えれば先程よりはこちらに利があります」 「セッテ……お前は……!」 オットーを破壊する、あまりに平然と口にするセッテにトーレは顔をしかめた。 何故正しい判断であっても迷うのか、彼女は理解していないのだろうか。その決断を下す辛さを。 以前、彼女に機械的過ぎると注意したことがあった。本当にあの時からまるで変わっていないのか。トーレは落胆し、叱咤、もとい八つ当たりしそうになったが、 「他の姉妹にはやらせられませんから」 その一言で飲み込んだ。 セッテは自己の感情の揺らぎの少なさを自覚している。その上でそれが最も確実で効率的だと判断した。 他の姉妹の精神的ダメージを軽減する為に、なるべく手を下すのは自分であるべき。それが己の役割であり、それをトーレも理解しているだろうと考えている。 その相棒にトーレを選んだ。それはトーレの役割でもあると、自らの責を果たせと暗に語っているように思えた。 それに比べると、迷っていた自分はなんて矮小だったのだろう。感情に流されず、現場で最善の決断を下すのは自分の役割だというのに。 ならばもう迷わない。純粋に己の責務を果たすことを考えよう。トーレは大きく息を吸って宣言した。 「捕獲は断念だ! オットーをデモニアックと判断、破壊処分する!!」 ノーヴェやウェンディが何か言いたそうに顔を上げるが、それも目で黙らせる。 オットーを野放しにはできないなら、せめてこの手で破壊する。それが自分の責任。 「チンク! 今どこにいる?」 『今奴らが暴れているビルの屋上だ。上がってくるかと思ってヒヤヒヤした』 通信を通したので話は聞いていただろう。チンクが何も言わないから、トーレも何も言わない。淡々と状況報告を交わす。 『中はデパートか何かのようだな。セインと確認したが、フロアはそれなり広く、騒動で商品が散乱している。 だが、仕切りが少ないから戦闘は十分に可能だ。上部三階には生きている人間はおそらくいない』 黒のデモニアックの戦闘形態から考えても、戦うなら接近戦だ。 それなりに広いとはいえ、屋内であればレイストームは軌道が制限され、自在には使えまい。最適な条件だと言えた。 「では作戦を練ろう。その前に……ディード、お前は待機だ」 一人俯いていたディードは、それでも顔を上げることはなく、トーレの強い口調に気圧され、むしろより深く沈みこむ。 唇をきつく噛んでいるのは、せめてもの意思表明のつもりか。 「異論はないだろうな」 トーレは鋭く睨みを利かせる。それはディードのみならず、ウェンディやノーヴェに対して言った言葉でもあった。 そして数秒間の沈黙。やがて彼女の口は注視しなければ気付かないほど小さく、了解、と動いた。 トーレは決戦の場となるビルを見上げた。正確にはそこで戦う二人の悪魔を。 この決定は、双子の彼女にオットーを殺す任を背負わせたくないからではない。 その感情は指揮官として相応しくない。ただ単に不確定要素を塗り潰す為、足を引っ張る可能性のある因子を排除する為。 そう考えることにした。 ※ ビルの壁面を往復する間も、数えきれないほど剣を振るった。互いに決定打のないまま、十分程が経過しただろうか。感覚では、もう何時間も戦っている気すらする。 膠着した戦況で、徒労と知りながらも、それでも動きを止めることができないというのは予想以上にジョセフの消耗を早めていた。 相手は両手を使えるが、こちらは右手一本なのだ。 例の光学兵器を使用してくれば隙も生まれるというのに、どうやら近づけば格闘戦、離れれば光線という単純な思考で行動している。 融合すれば接近戦でも銃を使おうとするデモニアックも多いが、この場合、中途半端に判断力が残っているのだろう。それ故、逆に戦い辛い。 剣を振るう腕が重い。 度重なる攻防の反動で握る手が痺れてくる。 ジョセフにとっても、それは初めての感覚。それもそのはず、これまで通常のデモニアック一体にこれほど苦戦したことなどない。これまで自分を下したどの敵ともタイプが違う。 一人は全てにおいて絶対的なまでの力量差。 一人は届かぬ空を舞い、風と一体の如き速度。 これはそのどちらでもない。凶暴で獰猛な勢い、それは”野性”と呼ぶのが適当な気がした。 「このままじゃ埒が明かないわね。ガルムもそろそろ限界かしら」 エレアに構う余裕も今はないが、言っていることは尤もだ。無茶の連続でガルムの負担もかなりのもの。 何でもいい、何か状況を一変させる為の切欠が必要だった。 壁面を斜めに切り上がり、空が近くなった時、程なくしてそれは来た。 それは弾丸や砲弾ですらなく、言うなれば光の波。莫大なエネルギーの奔流。 ジョセフの目の前で、丸太よりも太い光の束がビルを貫いた。下から上へ、斜めにビルを撃ち抜いた光は、すぐに空に吸い込まれて見えなくなった。 ビルはその衝撃で大きく揺れ、轟音はビルごと崩落するかと思うほど激しい。特に外壁のジョセフにとっては振動は凄まじいものだった。 二輪で走行していたジョセフは勿論のこと、四足で這っていたデモニアックも同様に振り落とされる。 「来い!!」 落ちる瞬間、声が聞こえた。声の主は戦闘機人のリーダー格の大柄な女。 端的な言葉だが、一瞬で意味を悟るジョセフ。それは声がジョセフに向けられていたこと、そしてジョセフがこの状況を待ち望んでいたからに他ならない。 ビルを揺るがした巨大な光は、言うなれば互いの間に打ち込まれた楔。反撃に転じることのできる絶好の機会だった。 それだけに行動に転じるのも速い。悲鳴を上げかけているガルムのアクセルを捻り、スラスターを噴射、破片をかわしながら崩れた壁の大穴に駆けこむ。 人で賑わっていたはずのフロアは閑散とし、そこに待っていたのは声を掛けた女ともう一人、ピンクの髪の戦闘機人だった。 ガルムを降りたジョセフの側に、大柄の方の女が近づく。 「ここで奴を仕留める。お前も協力しろ」 あの程度で死ぬとは思えない。むしろ怒りを燃やし、今にも登ってきていることだろう。それをわかっているからだろう、女は簡潔かつ一方的にジョセフに命令した。 高圧的な物言いだが、その程度で腹を立てている状況ではなく、別段異論があるわけでもない。一点、ジョセフが気になるのはただ一点だけだった。 「あれは……お前達の仲間じゃないのか?」 「だから始末をつける。それが我々の責任だ」 質問を予想していたのか、答えはすぐに返ってきた。その答えに達するまでには苦悩も葛藤もあったのだろう。 だが、ジョセフにそれを問う権利などなく、黙って頷いた。 「いいだろう、だが止めを譲るような余裕はない。奴の狙いは俺だ」 「それで構わない。私はトーレ、こっちはセッテだ、呼ぶ必要があれば呼べ。お前の名は聞かなくていい」 「他には?」 「それぞれ待機している。しかし前衛として戦うのは我らともう一人だけだ。識別の為の名乗りなら必要ないだろう」 つまり、あくまで混戦時に必要になるかもしれないから名乗っただけ、ということ。尤もそれ以上はジョセフも求めていなかった。 会話は数秒で終わり、それぞれに沈黙する。聞こえてくるのは、遠くからでも不思議と届く悲鳴と慟哭。しかしそれも数秒と持たなかった。 「エレア、バイクを頼む」 「わかってると思うけど、乗っていないとフィールドは使えないわよ。ガルムも、あなたもね」 それだけ言うと自動で離れていくガルム。見送ることもせず、ジョセフは剣を構えた。 ひりつく殺気が近づく。隠しもしない暴力的な気配が膨張する。 ぎり、とジョセフとセッテが武器を握り直すと同時に、気配が弾けた。 飛び込んできた白い影は一直線にジョセフに跳びかかる。突き出してきた拳をジョセフは剣で弾く。剣は両手持ち、下半身も安定していればさほど難しくはない。 ジョセフが拳をいなすと、不意に右にいたトーレの姿がぶれた。否、高速での移動と気付いた時には、手首の光の翼が刃物のナイフのように振り下ろされていた。 取った。ジョセフも、おそらくトーレそう思ったはず。 しかし、デモニアックの左手はトーレの拳を握り、押さえていた。続いてベキベキと空き缶を潰すような嫌な音。 「あぐっ! あぁああ……!!」 そして苦悶の声。トーレの拳は、デモニアックの桁外れな握力の前に空き缶程度でしかなかったらしい。 トーレの拳はジョセフにすら見えなかった速度、反射神経だけでなせる技ではない。ジョセフに注意を払いつつ、見て捉えることは不可能。 ならば、おそらくは直感、或いは経験則。 デモニアックの左手を切り落とさんと、ジョセフは剣を上げかけたが、直前で跳び退る。理由は背後から聞こえる風切り音。 視線をやると、セッテのブーメランが正面から縦に回転し、デモニアックに迫っていた。 なんの打ち合わせも合図もなくとも、避けると思ったのか。ともかく、鋭く回転する刃は、デモニアックの腕のガードごと切り裂くだろう。 無論、戦闘機人の身体ならなおのこと。 トーレの身体が振られ、ブーメランの軌道に引きずり出される。掴まれた拳のみで、トーレは操作されたのだ。 「ッ!」 これにはセッテも表情を変え、手に持っていた予備のブレードで、自ら放ったブーメランを相殺、叩き落とす。 その隙にトーレの左足は跳ね上がり、拳を握ったままの腕を狙う。足首にも同様の翼のような刃が生まれている。 が、切断される寸前でデモニアックはトーレを解放。素早く手を引き、勢いよく振られた足が通り過ぎた瞬間、 「がっあああああ!!」 握り拳に変えて突き出す。それは空振った左足の膝を強打、またも骨が砕ける音が響いた。 全てが五秒にも満たない攻防。そしてその間も、右手は常時ジョセフを警戒している。 右手と左足を潰され後退したトーレに従い、セッテも様子見。 戦いは再びジョセフとデモニアック、一対一の図式に戻った。 ※ 黒のデモニアックは一人でオットーを抑えているが、長くは持たないだろう。じりじりと後退している。 「くそ! なんなんだ、あの強さは!」 「トーレ、退いて下さい。その傷では戦力になりません」 セッテはいつも歯に衣着せぬ物言いをする。悔しいが、トーレには何も言い返せなかった。 情けないことに、右手と左足が使い物になりそうにない。体術を武器とするトーレにとっては致命的な負傷だ。 「わかっている……! セッテ、奴の援護を頼むぞ」 「わかっています」 「ブレードは投げるな。二本以上使うのも危険だ」 セッテが伏し目がちに頷くのを確認すると、トーレは飛行しながら後退、戦いを遠巻きに見守る。 ブレードを投擲すれば、奪われる危険が高くなる。融合されれば取り返せず、最早手が付けられなくなる。 それくらいわからないセッテではないと思うが、自分が危機に陥った時、オットーから助ける為に咄嗟にブレードを投げたのだろう。 元はと言えば自分の不甲斐なさが蒔いた種。あまり責めるのは気が引けた。 「もう少し……もう少しで……」 トーレは祈る思いで天井を見つめる。ディエチの射撃の影響で、天井には大穴が空いた箇所があり、周辺はパラパラと破片が落ちる程脆くなっている。 張られた罠の範囲に、オットーが足を踏み入れるのは時間の問題。後はそれまでに二人が倒されないことを願うしかない。 一歩、踏み込んで右の手刀を繰り出す。 二歩、手刀を剣で弾かれ、セッテのブレードを左手で受け止め押し返す。 三歩、セッテのもう一方のブレードで足を浅く斬られ、バランスを崩しながらも攻撃を試みる。 四歩、踏み込んだ瞬間、 「離れろ!!」 トーレが声を張り上げると、爆音と閃光が頭上で炸裂した。爆発によって脆くなった天井は崩落を引き起こし、巨大な瓦礫がオットーに降りかかる。 視界を埋め尽くすのは閃光と粉塵。備えていても、視覚と聴覚が元通りになるまでには数秒を要した。 崩落は上階に配置したチンクのランブルデトネイターによるもの。彼女の能力なら脆くなった天井の崩落を起こすことは容易い。 トーレが回復しても、未だ粉塵は晴れていない。爆発の一瞬、デモニアックはセッテに腕を引かれ脱出。 自身でも危機を悟っていたように見えたので大丈夫だろう。問題はオットーだ。 耳を澄ますと、粉塵の中から甲高い金属音が響いている。トーレは、嗚呼、と天を仰ぎたい気分になった。あの中ではまだ戦闘が続いているのだ。 ようやく視界が晴れた時、そこには新たに一人、爆発の前まではいなかった短い赤髪の少女が。ノーヴェは足に付けたジェットエッジから鋭い蹴りを続け様に繰り出していた。 オットーを仕留められなかった場合の保険だったが、戦闘しているということは不意打ちには失敗したということ。これで二つ、チャンスが潰えたことになる。 「トーレ、負傷しているのか!?」 声を掛けたのは眼帯をした少女、ナンバーⅤ、チンク。失敗に気付いて上階から降りてきたのだろう。横にはナンバーⅥ、セインもいた。 「私のことはいい! お前も戦闘に加われ!」 そう言ってチンクを追い払う。チンクは一度セインに目配せすると、離れていった。代わりにセインがトーレの肩を担ぐ。 「トーレ姉、一旦離れよう。ここにいたんじゃ危険だよ」 「ああ、わかっている。セイン、頼む」 仕込んだ策は尽きた今、ここにいても足手まといになるだけ。後は四人に託すしかない。口惜しさを堪えて、トーレは戦場を後にした。 ※ 黒のデモニアックとセッテ、ノーヴェは入り乱れながら戦う。前後左右、入れ替わり立ち替わり、それでも決定打には至らない。 硬く、速く、重い。たったそれだけのことが高い壁だった。 ノーヴェがガンナックルで射撃。オットーは両手を他の二人に向けている状態、回避は間に合わない。 オットーは頭部に被弾。大きくのけ反ったところへ、ノーヴェは追撃のハイキック。 当たっていれば勝敗は決していただろう。しかし、決することは無かった。 手応えを確信したノーヴェの表情が驚愕に歪む。額から煙を昇らせるオットーは、特に堪えた様子もなく、その手はノーヴェの足をしかと掴んでいた。 ガンナックルでは威力が足りなかったのだ。 そして、デモニアックやセッテの剣速に慣れたオットーには大振りなハイキックは緩慢な動きでしかなく、軌道予測も楽だったことだろう。 ノーヴェの抵抗など意に介さず、オットーは足を掴んだノーヴェを持ち上げ、振り回した。 もがくノーヴェを片手で制しつつ、棍棒代わりにセッテらを薙ぎ払う。 「ノーヴェ!」 叫んだところで、どうなるものでもないが、チンクは思わず叫んでいた。 回避の遅れたセッテは、ノーヴェの頭で顔を打たれ、倒れこむ。デモニアックは斬るのを躊躇し、後ろに跳んだ。 払った勢いもそのままに、オットーはノーヴェを投げ捨てる。 遠心力を加えて投げられたノーヴェは、声もなく回転しながら2~3m床を滑り、壁に当たると動かなくなった。強かにセッテと頭をぶつけたのだから、昏倒しても不思議はない。 チンクは改めて戦慄した。戦闘力にではなく、その戦い方に、である。姉妹を棒きれの如く扱い、使い捨てる化け物は、オットーと呼ぶことすら抵抗を覚える。 チンクはナイフを握り締めた。殺気が、憎しみが抑えられない。これがオットーだということも忘れそうになる。 オットーは姉妹の癖や戦法を熟知している。ガンナックルといい、ブーメランブレードといい、初見であそこまで対応できるものではない。 しかし、そこには感情は無い。戦う為の情報だけを残し、他はノイズでしかないのだ。 背中を向けたオットーに、チンクはナイフを構える。そこに迷いはなかった。 本当は雄叫びを上げたい気分だったが、代わりに刃に怒りを乗せて投げ放つ。 ナイフはチンクの思いを表し、一直線に飛ぶ。決して逸れることなく、オットーの背中を目がけて。 オットーは残る一人、黒のデモニアックに注意を向けようとしていた。ノーヴェが音を立てて転がった瞬間、音で判断して避けられるはずがない。 はずがないのに。 オットーはそれすらも避けて見せた。 「馬鹿な!?」 オットーは左にステップ、ナイフはその横を掠めて通り過ぎる。偶然ではなく、明らかに察知していなければできない行動。 まさか避けられるとは思っていなかった。回避できる要素などなかった。視覚、聴覚共に反応せず、精神的にも敵をあらかた一掃した直後である。欠片の油断も無いとは思えない。 驚きが支配し、一瞬思考が止まる。そしてナイフが通り過ぎた後になって、絶好の機会を逃したことに気付く。 爆風だ。直後なら直撃でなくとも傷は負わせられたのに。 遅いかも知れないが、今ならまだ間に合う。 チンクは投げナイフ、スティンガーを起爆させ、爆弾と化していたナイフはその場で中規模の爆発を起こす。質量の割に大きな爆発はオットーを巻き込み、フロアの壁を吹き飛ばした。 「やったか!?」 と喜んだのもつかの間、爆発の余波を受けたのは他の者も同様。 倒れていたセッテとノーヴェは大したことはないが、オットーの向かいに立っていたデモニアックは破片と爆風の直撃を浴びている。 まさかナイフが爆弾だとは思わなかっただろう。ダメージで言えばオットー以上だ。 動く者のいなくなった戦場で、チンクはがっくりと肩を落とす。 軽挙妄動とはこのこと、明らかな失態だ。冷静さを欠いた浅はかな行動が招いた結果。 急速に冷めていく頭が一つの答えを導き出す。何故、オットーはナイフを避けたのか。 それは殺気、ノーヴェを武器にされたことへの激しい怒りがオットーに気付かせたに違いない。 外から吹き込む風によって、呆然としていたチンクは正気を取り戻し、そしてチンクは自分が攻撃に巻き込んだ妹達の確認を優先させた。させてしまった。 トーレやセッテならば真っ先に標的の確認をしただろう。意識を失っているノーヴェに駆け寄るチンクは、オットーが未だ塵と化していないことに気付かなかった。 前へ 次へ 目次へ